天槍のユニカ



棘とお菓子(16)

 レオノーレはあたりを憚ることなくユニカの様子をけらけら笑い、こっそりこちらを窺っているであろう令嬢達を数えてくれた。
「あたし達を入れて二十三人いるわ」
「にじゅうさん……!?」
 主催のラビニエはまだ姿を見せていないようだし、コルネリアの姿もなかった。ということは、会場に集う娘はまだ増えるだろう。聞いていたとおり、本当に三十人が集まりそうだ。
 彼女らの名前をマクダに貰った小さな手帳に書ききれるだろうか。できれば名前と一緒に特徴も書いておきたいとユニカは考えていたが、そんなスペースはないかも。
 蒼白になって考えていると、早くもテーブルの上の焼き菓子を摘まんだレオノーレがいかにも適当な顔で言う。
「心配しなくても、ユニカが一番可愛いわよ。ここにディルクがいてもそう言うと思うわ」
「心配なのはそういうことじゃなくて……」
「あらまぁ、それは心配していないのね。自分に自信があるのはいいことだわ」
 レオノーレは見るからに緊張ですくみ上がったユニカの様子を楽しんでいた。あんまりなことを言う自称ユニカの親友≠むっつりと睨んでいると、その向こうから三人連れの娘達がやってくるのが見えた。
 どうやらこちらを目指してきているぞ、ということが分かってユニカはさらに肩を強張らせたが、よく見るとその真ん中はクリスタだった。安堵と嬉しさのあまり「あっ」っと声をあげると、レオノーレも怪訝そうにその一行を振り返った。
「ごきげんよう、ユニカ様。今日お会いできるのをとても楽しみにしていました」
 クリスタが恭しくお辞儀をしてくれると、彼女の両隣にいた二人もそろって頭を垂れた。知らない娘達だったが、ユニカも立ち上がってお辞儀を返す。
「こちらはわたくしのお友達のラモナさんとヘレンさんです。ぜひ公女殿下とユニカ様にご挨拶したいとおっしゃっていますの」
 クリスタに紹介されると、二人は順々に腰を折って名乗った。微笑み返しながら、ユニカは薄緑色のドレスがラモナ、桃色と白の縦縞(ストライプ)がヘレン、と頭の中で繰り返した。
 正直、あとからもう一度顔を合わせてどちらがどちらだったか思い出せる自信がない。二人ともドレスの色は違っても、作法にのっとったお辞儀や笑い方、話し方にはほとんど違いを感じないのだ。
 レオノーレもその二人に「よろしく」と笑いかける。そのレオノーレはやけに機嫌がいいように見えた。

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