天槍のユニカ



棘とお菓子(15)



* * *


 ジンケヴィッツ伯爵邸の庭は、整然と整えられた広い芝生、そしてその中央を貫く矩形の人工池でユニカを驚かせた。
 エルツェ公爵家の庭とはずいぶん違う。エルツェ家の庭も広いが、あちらは季節ごとに咲く花で応接間のように区切られていて、それがいくつも集まっているという感じだ。一階の広間とヘルミーネのお城≠ニ呼ばれる離れに接している庭は特に広く造ってあるようだったが、こんなふうに馬でも走らせるのだろうかと思うような面積はない。
 そして、ジンケヴィッツ邸の庭にある花はこの芝地と池を囲むように植えられているだけで、間近で楽しむためというよりは額縁のような扱いなのだろう。
 そのだだっ広い芝と石畳の庭で、池を囲むように椅子とテーブルが並べられ、美しい柄が入った更紗のパラソルや、レースで飾った天幕が心地よさそうな日陰を作っていた。または芝の上に布が広げられ、その上にはクッションと脚の短いテーブルが置いてある。お菓子が盛られた皿がのっているところを見ると、そこも茶会の席の一つのようだ。
 ユニカとレオノーレが伯爵家の女中の案内に従って会場へ入ると、すでに多くの席が埋まっていた。
 令嬢達はそれぞれのテーブルで一緒になった相手と笑い声を立てながらお喋りに興じていたが、誰からともなくユニカとレオノーレの姿に気づき、話し声のさざ波が一瞬さっと静かになった。
「上座も下座もないみたいね。まぁ、でなきゃあたしとユニカが主賓になっちゃうもの。そりゃあ嫌だものねぇ」
 レオノーレは令嬢達の視線を横目に意地の悪い笑みを浮かべ、案内された席で長椅子に置いてあったクッションをぼんぼん叩く。
「何人いるのかしら……」
「数えたらいいじゃない」
「首が動かないの……」
 ユニカはというと、姿勢を正して椅子に座ったきり、向かいの長椅子でくつろぎ始めたレオノーレから目を離せなくなった。正確には、ほかを見られない。少しでも視線をさまよわせたら知らない娘と目が合うだろう。そんな気がする。

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