天槍のユニカ



棘とお菓子(14)

 ユニカも、今回のようにまがりなりにも女達の集まりに招かれるようになれば、ディルク共々、人脈づくりは軌道に乗る。
 あとは地道に、王太子として、あるいはその伴侶としての実績をつくっていけばいい。
 カイとの話はこれで済んだので、一緒にフィドルを弾かないかと誘ってみた。すると未来のエルツェ公爵は、話をはぐらかされたことに気がついてむっとしつつ、誘われたのが嬉しいのはどうしようもないという複雑な顔で頷いてくれた。
 フィドルを持ってきていなかったカイのために、カミルを呼んで代わりの楽器を取りに行かせる。それと入れ違いに近衛の武官がやって来た。
「ザームエル伯爵からの報告書をお届けに参りました」
 こういうものを最初に受け取るのも、カイの仕事になるだろう。今日のところは自分で封書を開きながら、ディルクはカイを隣に呼び寄せた。
「ザームエルの名前は知っているか?」
「はい、先の衛兵隊長殿ですね」
「そう。彼には王太子領の軍の立て直しを任せることにしたんだ。王城の警備は、彼とラヒアックの二頭体制になっていたのをやめた。衛兵隊は近衛に吸収し、王都全体の守備体制も再編する。カイには各隊長の名前と顔はすべて覚えて貰う必要がある」
 うむ、と、やる気に満ちた眼差しで首肯する少年を微笑ましく思いつつ、ディルクはカイに見せる前にざっと報告書に目を通した。
 そこにはザームエルが王太子領に到着した日付と、更迭した連隊長に代わる者に辞令を渡したことが記されていた。
 ディルクの命令を兵に実行させられなかった指揮官――彼らの顔が脳裡をさっとよぎる。
 その時、別の名前が稲妻のように閃いた。
「……コルネリア」
 思わずその名を呟くと、カイが怪訝そうにこちらを覗うのを感じる。
 ユニカが茶会に誘われた日からずっと気になっていた、シャプレ伯爵の名前。
 違った。
 ディルクが知っていたのは伯爵本人ではなかったのだ。
(俺が知っていたのは、父親ではなく娘の方か)
 カミルを宮へ戻らせてしまったことを思い出して舌打ちしつつ、ディルクは執務室の扉を守っていた近衛兵を呼んだ。
「プラネルト女伯爵を呼んでくれ。急ぎの用件だ」

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