天槍のユニカ



棘とお菓子(13)

 そして、あながち間違いでもなかった。ウゼロ大公とシヴィロ国王の妹の長子として生まれたディルクには、公爵家くらいの姫が宛がわれて当然だ。ジゼラはディルクから見ると子どもでしかないが、十三歳になるのを前に、なかなか見所のある人柄に育っているし。
 だが、手持ちの最も強力な札を切って手に入れたユニカ以外は、もういらない。
 むしろユニカを守ることに注力したいので、メヴィア公爵といざこざを起こすわけにはいかなかった。
 エルツェ公爵がメヴィア公爵をうまく説得してくれればよいのだが――カイにも今少し努力して欲しい。
 ディルクが考えていることを察したのか、カイは生温く、わずかに呆れのこもった目をした。
「殿下はよろしいのですか。ジゼラは血筋に申し分のないお妃になれます。しかも、謹厳実直なメヴィア公爵を義父にできるのですよ」
 若くて真面目な大貴族の子弟がいかにもらしい$ウ論を突きつけてきたので、ディルクは鮮やかにそれをかわした。
「カイは、俺の義弟(おとうと)になるのは嫌か?」
「そ、そういうわけでは」
「よかった。俺もカイと兄弟の縁ができるのは嬉しいよ。それに、父君のことも俺は結構好きなんだ。冗談が通じなさそうなメヴィア公爵より。もちろん、あの方の実直さは信頼できる好ましいところだと思うが……」
 その上に謹厳≠ェついている性格の人物と深く関わるのは、正直なところ王一人でいい。そして、味方として頼もしいのは、エルツェ公爵のようにその時々の利益で動いてくれる人物だとも思う。
 エルツェ公爵なら、己の信念より損得勘定で動いてくれる。いや、むしろ損得勘定こそが彼の信念な気もするが。
 ともかく、ユニカのように特殊な存在さえ、やすやすと自陣の駒として取り込んでくれる貪欲さと柔軟さがあるという点でも、ディルクがこの先十数年を分かち合う第一のパートナーとして選びたいのは、エルツェ公爵だった。
 彼は、今のところディルクの味方だ。メヴィア公爵とも手を取り合うことができれば、ほかにもディルクにすり寄ってくる貴族は増えるだろう。

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