天槍のユニカ



棘とお菓子(12)

「なぜですか?」
「面白そうだからに決まってる」
 ゼートレーネへ向かう途中、ディルクはカイに「どんな女性が好みか」と聞いたことがあった。あの時のことを思い出したのだろう。カイは少し赤くなったが、表情だけは取り繕って答えた。
「まぁ――アルフレートの一つ下という割りには、落ち着いていると思いました」
「それだけ?」
 ディルクはもっと違った感想を期待していた。声が可愛かったとか見た目が好みだったとか、落ち着いていると感じる前に思うことがあっただろう。
 ちなみに、メヴィア公爵に連れられたジゼラと一度だけ挨拶を交わした時、ディルクが思ったのは「くりくりしている」だった。十二歳の少女らしく、まんまるで曇りのない目をして見つめてくるので素っ気なくすることもできず、父君の申し出を受ける気のないディルクは少し困ったものだ。
 ディルクがそう言うと、カイは「確かにくりくりしていましたね。目とか」とだけ返した。平静を取り戻した賢い少年は守りに入っており、これ以上茶化されても何も答える気はないと分かった。
「そういえば、話をしたのはごくわずかでしたが、やたらと姉上のことを聞かれました」
「ユニカのことを?」
「はい。食べものは何が好きかとか、花は何が好きかとか。花なら矢車菊がお好きだと思うと答えたら、矢車菊はもう咲いていないと言ってそれきり黙ってしまって」
 なぜかジゼラがしょんぼりしたので、彼女はヘルミーネとともに茶会へ、カイは次の授業へ戻ることになったそうだ。
「ユニカのことが気になるのかな」
「思うに……ジゼラは昨年嫁がれた下の姉君のリンディ様が恋しいのではないですか。確か、リンディ様は姉上と同い年です。すぐ上の兄のニキアスも、リンディ様のご婚礼のあと、間もなく領地へ向かいましたし。急に一人になって寂しいのでしょう」
「なるほど、ユニカは新しいお姉様′補というわけか。ユニカと仲良くしてくれるなら嬉しいが、それだけだと困るな……」
 ジゼラの婿が決まらない限り、メヴィア公爵がジゼラを王太子妃にと勧めてくる可能性が残ってしまう。ユニカが東の宮に住み始めて以降は何も言ってこないが、さりとてかの大貴族が諦めたという確証もないのである。
 何しろ彼には、エルツェ公爵のように己のために娘を差し出すという野心があるわけではない。自分の娘は王族の妃にふさわしく、多くの廷臣を納得させられる正道だと心から思っているのだ。

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