棘とお菓子(11)
カイはきりりと引き締めていた表情をほんの一瞬緩めた。褒められたら照れる顔は年相応だが、すぐにそれを引っ込めて隠してしまうあたりがカイらしい。そういうところも可愛がりがいがあると思う。
「ところで、この間ジゼラと会ったんだろう? どうだろう、カイの夫人になりそうかな」
メヴィア家嫡男のことも頭の中に思い浮かべていたディルクは、その妹のことを思い出した。カイにとっては突然湧いてきた話題で、そう簡単に動揺したところを見せないはずの彼は目を瞠った。
「なぜ殿下がその話をご存じなのですか」
「ヘルミーネ様の茶会から帰ってきたユニカが話してくれた。ジゼラとうまく話せて楽しかったみたいだ」
だからこそ、ラビニエの茶会がある今朝もユニカは憂鬱そうではなかったのだ。ジゼラがユニカのことをどう思っているかは分からないが、少なくとも、露骨にユニカを嫌ったりさげすんだりする態度はとらないでくれたそうだ。それどころかレースの編み方や刺繍の刺し方を熱心に聞いてくれ、気まずい思いをせずに済んだとか。
おかげで、ユニカは今日もだいぶ前向きに出かけていった。ひとまず乗り切ってこよう、という気分になっているだけでも、彼女にとってはすごいことだ。
ジゼラが誰にでも礼儀正しいのは、メヴィア公爵夫妻の薫陶のたまものだと思う。
ディルクがシヴィロ王国へ来てすぐ、メヴィア公爵が冗談めかして(しかし目は笑っていなかった)「ジゼラを王太子妃にどうか」と勧めてきただけのことはある。『天槍の娘』、あるいは『王太子の寵姫』を相手にしても動じないのは、すごい。
「確かにジゼラは当家に来ていましたが、だからといってメヴィア公爵家との縁談を姉上が知っているのはおかしいのですが」
カイはそう言うが、彼も分かっているのだろう。情報漏洩元は一つしかない。アルフレートだ。
ただ、ユニカから聞かされる前にエルツェ公爵から提案を聞いてディルクは知っていたし、むしろいずれ自分から持ち出そうとさえ考えていた話だった。
カイもジゼラに引き合わされると聞いた時、自分とジゼラの婚姻が何を生み出すか気づいたはずだ。
それには触れず、ディルクは無邪気さを装って身を乗り出した。
「心配しなくても、ユニカは言いふらしてはいけないと分かっていたよ。で、俺は縁談の当事者の所感を聞きたい」
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