天槍のユニカ



棘とお菓子(10)

 ディルクが秘書官として任じるために声を掛けたのはカイだけではない。メヴィア公爵家の嫡子、ニキアスも一緒だ。
 ニキアスはカイにとっては又従兄。しかも一つ年上で、成人すると早々に領地経営の一部を任され、今は家族と離れ地方領で過ごしている。それを都へ呼び戻す。
 自分より一年分多くの実務経験がある少年と並べられるのは、カイにとってはプレッシャーになるだろう。しかし、気位は高いが現実から目を離さないカイなら、多少の重圧は周りと競う原動力にしてくれると思う。
 カイ、ニキアスのほかにも、ディルクと多少∴縁があるブリュック侯爵や、クリスティアンの母の実家であるコースフェルン侯爵家の子息達は近衛騎士として登用する。王太子領の文官、武官として起用する者も、ほかの家から何人か。
 大霊祭のために集まった貴族達の宴への誘いをいちいち受けたのは、こうした声がけをするためだった。
 このやり方は王に倣ったものだ。
 王は幼い頃に相次いで弟を亡くしていた。それは王位継承にまつわる争いを生まなかったという側面もあるが、同時に、王がともにまつりごとを行える腹心を得られないという面もあった。
 そこで若かりし頃の王がとった方法が、有力貴族の子弟を自分の弟同然にそばで過ごさせることだった。彼らは長じて家督を継ぎ、要所で王の政事を扶けていた。
 エルツェ公爵、メヴィア公爵然り。様々な会議で議長を任されるアーベライン伯爵、近衛隊長のゼーリガー侯爵ことラヒアック、ブリュック侯爵――は、一度宮廷を追われたが――もその世代だ。
 シヴィロ王国に兄弟がいないという点はディルクも王と同じ。ならば、先例に倣った方が貴族達もディルクの意図を察するだろう。これはディルクの懐に入る大きな機会だと考え、この先も子弟を差し出してくるに違いない。
 そうしておけば、ディルクにとって不要な子女≠差し出そうとしてくる臣下は減るかも知れない、という淡い期待もある。
「俺は陛下以上に、……こういう言い方をあえてすると、手駒が少ない。手広くいきたいというのは分かって貰いたい」
「いえ、殿下の方針に異を唱えるつもりはありません。むしろ未熟な私に声を掛けてくださり、大変ありがたいと思っています。殿下のお役に立てるよう、微力を尽くします」
「その返事だけでだいぶ安心するよ。カイなら上手くやってくれると信じている」

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