王城の表裏(15)
「君にはユニカの世話を任せていたはずだが」
嫌な予感を覚えつつも、ディルクは努めて柔らかな声で問いかける。
「温室へ行くと……おっしゃって……」
「外へ出たのか?」
頷いたようにも見えたが、返事をする前にクリスタは気を失ってしまった。ティアナが頬をぺちぺちと叩いてみるが戻ってくる気配はない。
ディルクは舌打ちした。肝心なことが分からなかったこと、しかし十中八九、ユニカが勝手に外出したらしいことにかっとなる。
「クリスタはそこで休ませなさい。ユニカの様子を見てくる」
「はい」
ユニカのお菓子の好みどころではない。ディルクは皿をテーブルの上に置いて代わりに剣を掴み、執務室を出た。
「殿下、お出かけですか?」
慌ただしく出てきたディルクの様子と、今ほど髪を振り乱して入っていった侍女の様子が気になったのだろう。近くにいた近衛兵が声を掛けてくる。
鬱陶しい、と一瞬思ったが、いざというときの連絡役として一人は連れておいた方がいいか。そう思いつき、ディルクは爽やかに笑いながら振り返った。
「君、伴(とも)をしてくれないか」
「あ、はいっ!」
近衛兵は思いもよらず栄誉な任務に与ることが出来、子供のように顔を輝かせる。その彼を引き連れて出発しようとしたディルクを、また別の声が呼び止めた。
「待て、王太子!!」
王太子と呼ばれるようになってひと月あまりだが、これほど乱暴に呼びつけられたのは初めてだ。ルウェルの馴れ馴れしさとはまた違った遠慮のない声に、ディルクは眉根を寄せながら振り返った。
「なんだ貴様、殿下に向かって……!」
いきなりの護衛の任務に、近衛兵の声は上擦る。
ディルクを呼び止めたのは黒服の――法衣を着た男だった。そういえば面会を夕刻へ延ばした教会関係者がいたような、と思い起こしているディルクに、彼はつかつかと歩み寄ってくる。
「あんたが王太子で間違いないな。ユニカがあんたのところにいるだと?」
僧侶相手に抜剣することを躊躇った近衛兵はいとも簡単に突き飛ばされ、盾にもならない。
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