天槍のユニカ



王城の表裏(14)

 念のためルウェルを彼女のそばに置いてきたが、今さらながら人選は間違えたなと思う。
 きっと気が合わず、あちらはぎすぎすした空気に耐えて過ごしているところだろう。ほかに任せられる騎士はラヒアックくらいしかいなかったが、どちらにしろユニカには居心地が悪いことになる。
 三時までにここへ戻ればよいと時計を確認して、ディルクは宮へ帰ることにした。その間にディルクの許へユニカを引き渡すようにという要求があるかも知れないが、想定してあることなので慌てる必要もない。
「殿下、どちらへ?」
「ユニカの様子を見てくる。ああ、せっかくだからそのお菓子は貰おうか。彼女の気を引くのに使えそうだ」
「はい」
 ディルクのためにお茶の用意をしていたティアナから焼き菓子の載った皿を貰い、ナプキンでくるんで持っていくことにする。
「ユニカ様も甘いものがお好きでしょうか」
「エイルリヒほどじゃないだろうけど。彼女の部屋に入ったときには干した果物だとかケーキだとかが置いてあった。陛下からの贈りものかな。どっちも手を着けている感じではなかったんだが、陛下が贈るということはいつもそれなりに食べるんだろう」
「では、今度ユニカ様のために何かご用意しましょう。殿下がそれとなくユニカ様の好みを聞き出してくだされば、なおよいのですが」
「それは心強い。聞いておくよ」
 そんな作戦を練りながらディルクが上着を羽織っていると、ユニカの世話を命じていたはずのクリスタが駆け込んできた。
 めいっぱい走ってきたのがよく分かる、結った髪の乱れよう。汗だくになっていた彼女は主達の顔を見るや気が遠くなったのか、その場に崩れ落ちてしまった。
「クリスタ、いったいどうしたの!」
「ティアナ、殿下……」
 クリスタは駆け寄ってきたティアナに抱え起こされるが、息が上がってなかなか言葉が出てこない。
 ディルクの入城と同時に侍官として勤め始めた、つい最近まで普通の姫君であった彼女の体力は限界値が低い。その針が完全に振り切れているらしい。

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