天槍のユニカ



見えない流星(19)

 すぐにでも王を殺して……けれど、国が乱れ、人々の暮らしが壊されることはユニカの望むところではない。だから王との取引にも応じた。
 しかし今はディルクという政治の分かる世継ぎがいる。目的を達成しても大丈夫かも知れない。
 いや。きっと、国王の殺害を企んだ罪でユニカだけが処刑されて、それでおしまいだ。
 ところが、今日は正午近くになるまでいつも通りに時が流れている。
 ユニカは恐る恐る枕元に置いてあった鈴を鳴らした。
 ディルクの侍女がやって来るかもと警戒したが、ノックも忘れて寝室に駆け込んできたのはフラレイだった。
「おはようございます、ユニカ様! もうお昼ですけど……朝食、いえ、昼食はどうなさいますか?」
「食べるわ。その前にお茶をちょうだい」
「はい! あ、それと」
 妙に機嫌のよいフラレイは一度主室へ戻り、二つ折りにされた便箋と、封蝋で閉じられた手紙を大事そうに運んできた。
「便箋が王太子殿下からの書き置きで、封筒が国王陛下からのお手紙です」
「殿下と……」
 鼓動が乱れた。昨夜のユニカの告白についての反応がどんなものか、それを想像すると怖い。
「書き置きっていうことは」
「今朝、殿下がこちらにいらっしゃいました。侍女のティアナさんが殿下とご一緒に朝食をって伝えに来てくださったのですが、ユニカ様はまだお休みでしたから。それでお断りしたら、殿下が御自らこのお部屋に」
「私を起こしに来たの?」
「というより、しばらくユニカ様の寝顔を眺めて、そのお手紙をお書きになってから出て行かれました」
「ねっ――!? どうして寝室にまで入れてしまうの!?」
「え、だって、殿下が悪夢よけのおまじないをしたいっておっしゃるから……」
 それを聞いた途端、ユニカは手の甲でごしごしと瞼を擦り始める。どちらに触れられたか分からないので両方ともだ。
 悪夢よけのまじないとは、至って簡単なもの。眠っている人間の瞼にキスをするのだ。このまじないに必要なのは、子や伴侶、恋人に対する愛情のこもった唇。まじないとはいわれるが本質は愛情表現の方法である。

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