天槍のユニカ



剣の策動(20)



     * * *


 時は戻って、夕刻。
 アマリアの城壁の視察から戻ったディルクは、自分の部屋へ帰る前に執務室へ立ち寄り、待たされていたライナから話を聞いた。
 彼の話によると、ラヒアックの名で命令書が届けられたので、そこにあった通りの任務を遂行しただけだという。その話が本当でも、ユニカの部屋をめちゃくちゃにしろという命令ではなかったはずだ。
 ディルクはそこには触れず、無言で若い騎士の顔を眺めていた。
 だが、ラヒアックにはそのような命令を出した覚えはない。近衛隊長の発言にライナは狼狽えたが、命令書は確かにあったと言う。任務を終えてすぐラヒアックの執務室に届け、ローデリヒに渡したそうだ。
 しかし、ライナが退出したあとで新たに呼び出されたその騎士は、首を傾げながら苦笑した。
「受け取った覚えはありませんが……」
「ライナは、命令書はお前が受け取り、私に引き継ぐと言っていた、そう報告してきたが」
「彼は、私に騎士号の返上を思いとどまるようにと言いに来ただけでした。私が事務方へさがることを納得していないそうです。すぐ持ち場に戻るようにと追い返しました」
 ラヒアックはそれを聞いてむぅっと唸る。なぜ二人の言うことが食い違うのか分からない。
「ギムガルテ、その場にいたのでは?」
「いやぁ、ライナが出て行こうとしてるとこに俺が来たみたいだったからなぁ。紙を受け渡ししてるとこは見てないんすよねー」
「――分かった。仕事終わりに呼び出して済まなかったな。騎士解任の辞令は明後日には渡そう。戻って休んでくれ」
 ローデリヒは柔和な笑顔をディルクに返すと、敬礼して踵を返した。

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