天槍のユニカ



剣の策動(18)

 いつか必ず、お目に掛けたい。
 そして最後の手紙には、あの夏の村の状況、今後病が広がる可能性の高い地域、アヒムらが推測した感染経路、ある程度治療に効果があった薬、処方の一覧が書かれていて――病に罹らず生き残るであろうユニカを迎えに来て欲しい、自分には送り届けることが出来ないから、とあった。
 二冊の日記帳は、その手紙に添えて送られてきたものである。
 アヒムがユニカを引き取ってからの約二年の記録だった。それをどうして欲しいとは手紙には書かれていない。
 けれどこの日記を読んだから、クレスツェンツはビーレ領邦への医師団派遣を強行し、自らユニカを迎えに来てくれたのだ。
 日記の中では、ユニカを引き取る前後の記述が特に長かった。
 ユニカの両親の葬儀を行ったあと、ユニカの行き先はずいぶん揉めたようだ。村に置くか、大きな教会堂に預けてしまうか、何度も協議を重ねたと書いてある。
 結局アヒムが引き取ることで落ち着いたが、その後すぐに安らかな日々は訪れなかった。
 ユニカはわずかな物音に怯え、特に大人の女を怖がったそうだ。実母から受けた仕打ちのせいだろうと、アヒムは歯切れ悪く記してある。
 血を差し出せば許して貰える≠ニユニカは思っていたようで、ふとしたことで恐慌状態になり、泣き叫びながら物陰に隠れ、身体に刺せるものは何でも刺すことを繰り返していたらしい。ペン先や、食器の破片、尖った石、木切れ、自分の爪や、歯。
 アヒムはどうしてもそれをやめさせることが出来ず、ついに都からある薬を取り寄せた。
 強い催眠作用のある、新しい薬だ。
 傷がすぐに治るだけではなく、毒や薬も効かないと考えられていたユニカに、アヒムはそれを大量に与えた。


 
 重荷だったはずだ。
 当時はとても大きく見えていた養父の姿だが、それから八年分成長したユニカは彼がとても若かったこと気がついた。
 特殊すぎるユニカと一緒に暮らしていたことで彼は結婚することにも気後れしていただろうし、仲のよかったキルルとの関係も壊れてしまった。

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