天槍のユニカ



棘とお菓子(5)

 ディディエンもユニカに同行することになっている。むしろ、ユニカとともに会場へ入れるのは侍女一人だから、ユニカに最後まで同行できるのはディディエンだけだ。
 出発前に、会場でユニカを助けるようよく言い含めておこうと思っていたら――妹は、クリスティアンとフィンのあとからひょこひょこと走ってきた。使用人ともあろう者が、今まで支度をしていたようだ。
「遅いわよ」
 エリュゼは少し屈んで、駆け寄ってきた妹の前髪の流れを整えてやった。
「ごめんなさい。フラレイさんが、髪は絶対巻いた方がいいって言うから」
 前髪の縁から垂らしたディディエンの横髪には、いつもと違うくりんとした癖がついている。
 ユニカの支度はマクダの使用人達がやってしまったので、ディディエンの支度を彼女の同僚であるフラレイとリータに任せたのだが、任せきりにしたおかげで段取りが悪かったのだろう。危うく侍女が遅刻する事態になるところだった。
「ああよかった、古くは見えないわね」
 茶会の会場でほかの姫君が連れてくる侍女達と並ぶであろうことを考えて、ディディエンには常よりも華やかなドレスを着せてあった。クリーム色の生地に白いダリアの柄が描いてあるドレスで、襟元にはペリドットのビーズまで散っている。エリュゼが王妃に仕えていた頃、茶会に同行した時のドレスだった。
 王妃が仕立ててくれたものなので、質は侍官の身に余るほど。流行の柄ではないが、最高級品なので見劣りすることはなさそうだ。
 エリュゼは自分がほんの十二、三歳だった時の、王妃が開いた茶会のことを思い出した。ヘルミーネをはじめとする、王妃とごく親しい貴婦人だけが集まる小さな茶会。
 そこで王妃は、まだほとんど見習いといっていい侍女だったエリュゼのこともテーブルのそばへ呼んで、皆に紹介してくれた。
 ディディエンが、あの時にエリュゼが着ていたドレスをまとっているから思い出したのだろう。
 それにしても、なんとなく寂しい。ユニカに同行できないのはラビニエが決めたことだから、仕方ないとはいえ。
 ユニカはエリュゼがいなくてもどこかへ行けるのだと思うと、置いていかれたような気になる。
「ユニカ様のことを頼んだわよ。ほかの姫君方に妙な言いがかりを付けられていたら、その場からよそへ上手くお連れして」

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