天槍のユニカ



棘とお菓子(4)

 しかも、珍しいことにユニカは髪を結い上げていた。細い金色のリボンが黒髪の艶やかなシニョンに編み込まれていて、矢車菊の簪の存在を引き立てている。何より、匂うような白いうなじがあらわになっていると、エリュゼもうっとりと見つめてしまいたくなるほどユニカは美しかった。
 この姿を見たら、「城の奥に閉じこもっている」などというユニカの暗いイメージは払拭されるに違いない。どこからどう見ても、亡き王妃やヘルミーネが育てた一人の貴婦人である。
 引っかかるのは、きっとこうして美しく見えるだろうと思ってエリュゼが勧めても、ユニカは髪をきっちりまとめるのをどうしても嫌がっていたことだ。
(あの仕立屋の勧めには応じられるのですね……)
 などと、つい妬ましい気持ちも湧いてくる。
 相手が昔馴染みであるから仕方ないのだが……しかし、昔の知り合いだからなんだというのだ。エリュゼだって、ユニカの好みは知り尽くしている。
 人前であまりユニカと親しそうにされても困る。ほかの貴族の目にどう映るかはちゃんと考えて貰わないと――エリュゼはそう思いマクダを見張っていたが、結局、彼女がユニカに抱きつくなどというとんでもない真似をしたのは、あの日が最初で最後だった。
 仕立屋は時々口を滑らせてしまうことがあるものの、概ねユニカのことを貴族の客とわきまえて接していた。親しげな雰囲気はどうしてもにじみ出ているが、咎めるほどのことにはなっていない。
 それがかえってエリュゼの表情を険しくさせた。マクダを追い払うきっかけがないし、ユニカも相手がマクダだというだけで自らドレスの生地を選んだり、素直に飾りの追加に応じたりしている。以前にヘルミーネの命でドレスを仕立てた時は、こうではなかったのに。
「伯爵」
 誰にも見られていないと思って溜め息をついた時、不意に背後から声を掛けられた。はっとして振り返る。今日、ユニカに同行するクリスティアンとフィンも支度を終えて、そこに控えていたらしい。
「車の用意もできたようですので、そろそろ出発しようと思います」
 大きな溜め息を聞いただろうに、クリスティアンは素知らぬ顔でそれだけ報告してきた。彼はこういうところで余計な話はしない。それにほっとしつつ頷き返して、エリュゼは妹の姿を探した。

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