棘とお菓子(2)
茶会にディルクから貰ったイヤリングや指輪を着けていくことを考えていた訳ではないのに、ユニカはマクダが用意してきた膨大な生地の中から、吸い寄せられるようにこれを選んだ。
マクダや途中経過を見たレオノーレから散々冷やかされるという羞恥に堪えねばならなかったが、完成したドレスを見たディルクが嬉しそうだったので、これでよかったみたいだなと思う。
髪にもサファイアと紫水晶でできた矢車菊を挿して貰って、支度は完了だ。マクダはユニカの周りをぐるぐると歩き回ってできばえを確かめ、うっとりと溜め息をついた。
「本当に、大きくなったわねぇ」
このドレスを仕立てるために、毎日のように聞かされた感慨の溜め息だ。ユニカは照れ笑いを返すだけだが、別の方角からとげとげしい咳払いが聞こえてくるのも毎度のこと。
マクダははっと笑顔を引き攣らせてエリュゼの方を窺い、何ごともなかったかのようにユニカの襟元のフリルを整えるふりをする。
「ねぇ、今日はあのお嬢さん、いつもより機嫌が悪くない?」
「一緒に行けないから、私のことが心配なのだと思います」
「過保護ねぇ。しかもそれはあたしのせいじゃないよ」
ぽそぽそと囁きあって、マクダと一緒に思わず笑う。マクダはこうしてユニカの緊張をほぐそうとしてくれているのだろう。それが分かると本当に肩の力が抜ける。
加えて、マクダが手がけ、クリスタがチェックして太鼓判を押した衣裳を着ているし、ヘルミーネやクレマー伯爵夫人からの助言で用意した手土産と、折良くゼートレーネから贈られてきた木苺の果実酒も持っていく。ラビニエの機嫌を損ねず、無事に茶会をやり過ごすくらいのことはわけない気がしてきた。
ユニカの顔がほころぶのを見て、マクダも安心したらしい。
すると彼女は自分の召し使いを呼び寄せ、両手にのるほどの小さな布張りの箱を受け取った。
「こちらはご注文の品ではないのですけれど、いいものが手に入りましたので、ユニカ様に差し上げたいと思って持って参りました。お納めくださいまし」
そうして自慢げにその箱を開けてみせる。中には絹が敷き詰められていて、真ん中に掌大の銀色の四角い板がはまっていた。板には蔦とリボンが絡んだ優美な模様が彫られている。
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