天槍のユニカ



棘とお菓子(1)

第4話 棘とお菓子


 エルメンヒルデ城の外郭にある迎賓館にて。
 ユニカは明るい薄紫のドレスに袖を通し、ふっくらと膨らませた腰の上に白色のリボンがのっているのを鏡の中で確かめた。そして、すぐそばで微笑んでいたマクダを振り返る。
「大きすぎないでしょうか」
「いいえ、ちっとも! よくお似合いですよ。ちょっと歩いてみてくださいまし。ほら、リボンがふわふわ揺れて、なぁんて可愛いのかしら!」
 マクダは両手を広げてはしゃいでから、ユニカの胸元に留められていた同じ色のリボンの傾きを直した。
「この生地の色だと、ちょっと大人しすぎるかなと思っておりましたの。急いで追加してよかった」
 ユニカはもう一度鏡の中を振り返り、腰にくっついている大きなリボンを確かめる。可愛らしすぎる気がする……。しかし、そのふんわりした薄い生地は歩きやすいようにたくし上げたガウンのひだと重なり、華やかで活動的に見えた。
 ドレスが大人しい色を基調としているので、これくらいにした方が年相応なのかも知れない。ちなみに腰に大きなリボンをくっつけるというアイディアは、マクダがゼートレーネの女達が作ったドレスを見て思いついた。
 ディルクが気前よく宮の一室を作業部屋として提供してくれたおかげで、ドレスはマクダが連れてくる十数人のお針子達によって着々と作られていき、四日前に完成した。
 今日はいよいよジンケヴィッツ伯爵邸でのラビニエの茶会。着付けは最後の仕上げだと言って、早朝からマクダが駆けつけてくれた。
「さて、御髪の準備に取りかかりましょうか」
 仕立屋と、彼女が連れてきた女の理髪師に促されて化粧台の前に座る。髪をまとめられると、当然のことながら耳元があらわになった。そこに矢車菊のイヤリングを見つけて、マクダはこっそりと耳打ちしてきた。
「王太子殿下にいただいた耳飾りって、これね。櫛も指輪もおそろいなのね。いいわぁ。ドレスの柄にもぴったり」
 ユニカは頬を赤らめて頷き返した。
 今日のドレスには、耳についている宝石と同じモチーフが入っている。明るいラベンダー色の生地に、白や淡い赤紫で矢車菊の図が散らされているのだ。

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