天槍のユニカ



みんなのおもわく(18)

 じっと見つめ合ったような気がしたが、実際はほんの短い時間。
 先に口を開いたのはジゼラだ。
「お初にお目にかかります、ユニカ様。メヴィア公爵グラシアノの三女、ジゼラと申します」
 彼女は完璧に優雅なお辞儀をして見せた。笑顔も完璧だ。少なくとも何かを含んでいるようには見えない、友好を申し込む表情だった。
 クリスタがそっと小突いてくれたので、ユニカも我に返ってお辞儀を返した。
「はじめまして。ようこそ、ジゼラ様」
 私よりこの子の方がよっぽどお辞儀(カーテシー)が上手だわ。ユニカは気まずく感じたが、ジゼラは嬉しげに微笑み返してくれる。
 なんと言い含められているのだろう。生粋の公爵家の姫君が、ユニカを年上の姫君として純粋に尊敬しているとは思えないのだが。
 しかし、ジゼラの雰囲気は少なくとも、招待状を届けに来て脅迫の一言を残していったコルネリアより、天真爛漫なクリスタに近い気がした。
「ユニカ様は、レースを編むのがお上手だと聞いております。お茶会が始まりましたら、ぜひ上達のこつなどを教えてください」
「はい、もちろん」
 内心戸惑いつつ、ユニカも短く笑い返す。ジゼラはちょっと声を掛けにきただけらしかった。彼女はクリスタにも挨拶すると、再び幼少の頃から仕込まれたであろう本物のお辞儀をして、踵を返した。さくさくと芝を踏みながら小走りに戻っていくのは、メヴィア公爵夫人と思しき女性の許だ。
「アルフレート様がおっしゃっていたことが本当なら、お茶会の途中でヘルミーネ様がジゼラ様を連れ出すはずですわ」
 クリスタはその時間を楽しみにしているようだ。
 カイの結婚相手候補の姫君というだけの話なら、ユニカも少しくらいは物見高い気分になれたかも知れない。だが、あいにくと二人の関係の隣には自分とディルクがいる。
 ジゼラはそれも分かっていて、覚悟もしているのだろうか? 聞いてみたい気がしたが、そこまで腹を割って話せる仲になれるかはまだ分からない。
 しかし、ユニカがいた方がディルクのためになることもある――例えそれがユニカ自身の力に因るところではなくても、少しくらいは希望を抱ける。
 その希望をものにする≠ノは、まずはラビニエの茶会を乗り越えなくてはいけなかった。
 人並みにやっていけるという姿を皆に見せないと。
 ユニカはぎゅっと拳を握って、茶会が始まるヘルミーネのお城≠ヨ戻っていった。








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