天槍のユニカ



みんなのおもわく(14)

 クリスタも同じことを考えたらしい。彼女は再びペンを取ってカイとジゼラの間に線を結んだ。その目は驚きの余韻をたたえつつも、きらきらしていて楽しそうだ。
「メヴィア公爵は、未来のエルツェ公爵の義父になれるところでご満足、ということでしょうか?」
 カイとジゼラは又従兄妹という関係だが、そこが結びつけばエルツェ家とメヴィア家の関係はさらに濃密になる。メヴィア家は血でエルツェ家を取り込めるといってもいいくらいだ。でも、それが王妃を輩出することと比肩できるうまみだろうか……。
 クリスタや、首をひねっているエリュゼもそのあたりが気になっているようだ。
 彼女らと同じ疑問を抱けるようになるとは。自分もだいぶ貴族に染まってきたらしいと、ユニカは内心で苦笑する。
「多分、大人達の目当ては兄上じゃなくて姉上だよ。というよりやっぱり殿下」
 今度はアルフレートがペンを取った。そして、先ほどは描き足さなかった線を、なんの躊躇もなくユニカとディルクの間に結ぶ。
 すると、ユニカを介して、カイを通じて、三つの家は兄弟の関係になる。
「殿下のお妃の実家の地位を、いわば山分け≠オようってこと。レハールやシェードレーなんかのほかの公爵家に入り込まれる前に、うちとメヴィア家で殿下のまわりをがっちり固めるつもりなんじゃないかな」
「それが、アルフレート様のご推察?」
「違うと思う?」
「いいえ。とても納得がいきました」
 クリスタは膝の上に手をそろえ、真剣な眼差しで系図を見下ろした。もしこの連合≠ェ実現するとしたら、自分の家はどういう風に動くべきか――それを考えているのだと分かって、ユニカは思わず口を挟んだ。
「カイとジゼラ姫のことは話が進んでいるならそうなのかも知れないけれど、私と殿下は違うわ。私は殿下のお妃ではないのよ」
 そうして婚姻を示す線を、ぴっと引いた別の線で掻き消す。そんなことはここにいる三人ともが知っていることのはずだった。ユニカがいずれ去るつもりだということまでは知らないが、王太子が個人的に召し抱えた愛妾と、身分、権利ともに王族である妃ではまったく違うということは、分かっている面々のはずだ。
 だから事実を確認しただけなのに、三人からは奇異の目を向けられる。
「しかし、ユニカ様」
 ユニカの手からペンを奪い取り、今度はエリュゼが線を引き直した。ユニカと、ディルクの間に。

- 1250 -


[しおりをはさむ]