天槍のユニカ



みんなのおもわく(13)

「アルフレート様は何かご存じですの?」
「知ってるっていうよりは、こういうことだよね、って思っただけだけど」
 弟の返事は曖昧だったが、クリスタの興味を引き出せたことが嬉しいらしい。彼はユニカに寄りかかったままもう一枚サブレをかじり、「聞きたい?」と胡散臭い笑みを浮かべる。
「ぜひ、聞かせてくださいまし」
「う〜ん、どうしようかな。姉上は聞きたい?」
 クリスタの素直で熱心なお願いに気をよくしたアルフレートは、次いでユニカの顔を覗き込んできた。クリスタのような反応を期待したのに、そこでようやく姉が蒼白になっていることに気づいて目を瞠る。
「姉上……あの、大丈夫ですよ。王太子殿下のお妃の座を争ってうちとメヴィア家が戦争するなんてことには、多分なりませんから」
 ユニカの懸念の半分を、アルフレートは最初から分かっていたらしい。焦らしたせいでユニカが不安になったと思ったのか、彼はあっさりと答えを口にした。
「だってジゼラは、兄上と婚約するみたいだし」
 驚きというより、悲鳴に近い声をクリスタがあげる。青ざめていたユニカもぱちくりと瞬いた。
「カイと?」
「うん。今日のお茶会、もともと兄上とジゼラを会わせてみるためのものらしいですよ」
「そうなのですか? 本当に? お母上がそうおっしゃって?」
「直接聞いたんじゃないけど、盗み聞きしようと思ったわけでもないよ。でも、父上と母上がそう話しているのを聞いちゃったというか」
 クリスタに向かってアルフレートはそう弁解したが、目は泳いでいた。聞こえてきた話が面白そうだったので、立ち去らずに聞き耳を立てていたというところだろうか。
「だから姉上は安心して、殿下のところで暮らしてください。もちろん、飽きたらうちに戻ってきてくれてもいいけど」
 アルフレートの慰めには、曖昧に頷くことしか出来なかった。しかし、かすかに安堵してしまったのも事実。そのことに後ろめたさを感じつつ、王家を取り巻く大貴族の家系図を見下ろした。
「もし、もしその話がこのまま進んでいって、カイ様がジゼラ様とご結婚なさったら、ですが……」

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