天槍のユニカ



みんなのおもわく(12)

「ご覧の通り、エルツェ家とメヴィア家は現在とても近しいご親戚でいらっしゃいますが、同時に、王家とも縁が近いために王妃の輩出で競い合う仲でもあります。先ほどユニカ様は『仲がお悪いのか』とおっしゃいましたが、確かによいとは申せません。特にエルツェ家もメヴィア家も、当代の陛下のお妃を輩出しながら、お世継ぎの外戚になることは出来ませんでした。ですからお互いに『また、次も』と考えていらっしゃるのです。今は、そういう微妙なご関係です」
 王の名前の下に続いたディルクの名前と自分の名前、そして、メヴィア家のジゼラの名前を見て、ユニカは血の気が引くのを感じた。
 どうして≠ゥは、はっきりとしない。継父が、本気でディルクにユニカを娶らせようとしていることにか。それとも、ディルクの妃になり得る姫君がちゃんといることにか。
「本当なら、うちは僕と兄上しかいなくて競いようもなかったんだけど」
 隣に座っていた弟の無邪気な言葉に、ユニカはぎくりとした。
 世継ぎは男だ。嫁がせられる姫がいなければ、仕方がない。ところがユニカがエルツェ公爵のもとに転がり込んだ。
 自分がいるせいで二つの公爵家が睨み合うことになったのか? ぞっとしたが、ユニカはすぐにことの経緯を思い出した。ユニカをエルツェ家に預けると決めたのは王とディルクではなかったか。
 だったらこれは、この争いの種≠ニもいえる状況を作ったのは王家ではないのか。
「でも、殿下が姉上がいいっておっしゃるんだもの。仕方ないよね。ジゼラは僕より一つ下だし、そうするとちょっと歳が離れすぎてるから、姉上の方がお似合いだと思う」
「でしたらなおさら、メヴィア公爵夫人とジゼラ様がヘルミーネ様のお招きに応じる理由が分かりませんわ。だって、メヴィア家の方々からすれば、やはり面白くないではありませんか。もう一度お妃を立てられる好機でしたのに」
 クリスタがちらりとこちらを覗うのを感じた。彼女は気まずそうだったが、ユニカも表情を取り繕うことが出来なかった。
 今日、この屋敷に来ている姫君の名をじっと見つめる。本当は、彼女に席を譲るべきではないのか。でも、まだ幼いというなら彼女が年頃になるまで――いや、そんなことは考えるだけで目の前が暗くなる。
 分かっていたのに。そうするつもりだったのに。
「そこをね、父上達が上手いこと考えたんだと思うよ」
 めまいさえ覚えそうなユニカだったが、アルフレートがこつんと身体をぶつけてきたことで我に返った。

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