天槍のユニカ



矛先(18)

「では、なにゆえこの宮へおいでになったのですか?」
「そこの騎士が、図書館でユニカと思しき娘が泣いていたと言うから様子を確かめに。だが、やはり戻ってはいなかったか。泣いていた原因は分かったが……荒らして行ったとは腑に落ちない。シヴィロ王国の近衛を束ねていたのはラヒアックだ。このような狼藉を働く命令は出さないはずだ」
「騎士様は『証拠を探しに来た』とおっしゃっていたそうです。フラレイが聞いていました」
 ディルクは、傷つけられ倒されている調度類を見渡して腕を組んだ。
「『荒らして行った』と言いたくなるのは分からないでもないが、とにかく私には心当たりのない命令だ。ユニカに対してこんな仕打ちをする必要がない。ほかに近衛を動かせる陛下にも、ラヒアックにもな」
 エリュゼはディルクのその言葉が不服だった。現実にユニカの部屋はこんなことになっているのだ。彼女はじっと王太子を睨み、目が合う前にさっと視線を逸らす。
「それで、ユニカがどこにいるか心当たりはないか? 図書館を飛び出していったらしいんだ。ほかに彼女が行きそうな場所は?」
「心当たりは、一つございますが」
「教えてくれ。迎えに行こう」
「殿下が、でございますか?」
 エリュゼのその言葉に、いち早く反応したのは暖炉の前で膝を抱え丸まっていたルウェルだった。彼の周りには溶けた雪がいくつもの小さな水溜まりを作っていた。
「俺はここで待ってる。服乾くまで動かないぞ。これ以上冷えたら風邪引きそうだ」
 炎を見つめているルウェルは知る由もないが、エリュゼは不快感を露わに、彼の主であるディルクに「それはならない」と視線で訴えかける。
「安心しろルウェル、ばかは風邪を引かない。それとも、護衛のくせに俺から離れる気か?」
「ち、違うけどさぁ」
 ルウェルは大げさに震えて見せたが、ディルクには相手にもされていなかった。仕方がないので、残りわずかな時間にめいっぱい暖をとっておこうと暖炉ににじり寄る。
「殿下、ユニカ様をお迎えに行ってくださるなら、もう一つお願いしたいことがございます」
「なんだ?」


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