天槍のユニカ



矛先(17)

「なんだぁ?」
 暖炉の前で震えていたルウェルはフラレイを振り返り、鬱陶しそうに唸った。すると彼女はますます縮み上がり、リータも脅えた様子で、二人してじりじりと部屋の隅へと後退っていった。
「王太子殿下、あの騎士様は、どちらの小隊の方でしょうか?」
「あれは私の護衛専門だ。公国から呼んだばかりの新顔でどこにも属していないが、何かあったか? 怖い顔をして……と、尋ねるのもばかばかしいな」
 ディルクは荒らされたユニカの部屋を眺め、剣呑に目を細めた。
「宮の入り口をうろついている近衛兵がいたおかげで庭から忍び込む羽目になったんだが……ああ、ここへは近づくなと陛下に言われているものだから、人目につくのはまずいんだ。内密にな」
「近衛兵が宮の周りに……? わたくしが留守の間にユニカ様のお部屋を荒らして行ったのも近衛の方々だそうです。騎士様が侍女にまで乱暴を働いたので、あの娘はすっかり脅えきっております」
「俺じゃないよー」
 ならば他人事であるとでも言いたげにルウェルは顔を逸らし、再び温もりを与えてくれる暖炉の火を愛おしげに見つめる。
「騎士が乱暴を? それは済まなかったな、フラレイ。けがはないか? 騎士の特徴を教えてくれ。見つけ出して処罰しよう」
「その前に、このお部屋のありさまについてご説明いただけませんか?」
「……ずいぶん荒らされている」
「そうではなく!」
 エリュゼはそばにあったチェストを叩いて声を荒らげる。目を瞠ったディルクは、しかしすぐに尊大に顎を反らし、エリュゼを見下ろした。すると彼女は大人しく腰を折り、臣下として礼をとった。
「申し訳ございません」
「この部屋を荒らしに来たのは近衛兵。だから私の命令ではないのかと、そう言いたいのか?」
「――はい」
「はっきり言ってくれる。だが違う。確かにこの国の兵を操る権限を私は得たが、まだ実が伴っていない。この部屋の状態も、ここへ来て初めて知った」


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