天槍のユニカ



みんなのおもわく(4)

「クリスタお嬢様も、今日ここで聞いた話はどうか秘密になさってくださいね」
「ええ、分かっています。わたくしが知っているユニカ様は、王太子殿下の大切な方で、お勉強熱心で、病の人達を気に掛ける優しい方。それだけですから」
 クリスタはユニカが施療院に通っていることを知っているらしい。それもディルクから聞いたのだろうか。なんにせよ、実際よりずっとよい評価をされているのが気恥ずかしい。
 クリスタ言葉のどこに興味を惹かれたのか分からないが、マクダは「ほほう」と何かを含んだ感嘆の声をもらした。
「殿下が初めてユニカ様を宮にお連れになった時、もしかしたらこんなことになるのではないかと思っていたのですよ。あの時、殿下はとてもユニカ様のご体調を気に掛けていらっしゃいましたし、ご自分の目の届くところで面倒を見たいからよろしく頼むと、わたくし達にも特におっしゃって」
 そのディルクの厚意をことごとく突っぱねていた頃の話は、今のユニカには聞くに堪えない。だが、本当にこんなこと≠ノなると思っていたのかは分からないが、当時を思い出しているクリスタはどこかうっとりしていた。やっぱり、エルツェ公爵の作り話を聞いて自分の中にあった想像をますます華やかに彩ったのだろう。
「ふーん。あんなにちびでひょろひょろだったのに、こんなに手足も長くなって、」
 マクダは口を回しながらユニカの胸囲を測っていた。その視線は何かを含んで、ほんの一瞬、コルセットで押し上げられたユニカの胸元に落ちる。
「立派≠ノなったものねぇ。そりゃ、王太子殿下のお目にもとまるわけだよ」
 そしてとびっきりでれでれと崩れた顔でマクダがにやけるので、彼女が離れたあと、ユニカはそっと自分の両肩を抱きしめた。
 なんだろう、今の視線は……。
「マクダ、ユニカ様はお小さい頃、どんな方だったのです?」
「ちびだったこと以外は、今とあんまり変わらないかも知れませんねぇ。あの頃からお勉強は嫌いじゃないみたいだったし、あたしはいつもユニカのうちに泊まっていたんですけど、気の回る優しい子だなと思っていたし。もじもじしてはっきり喋らなかったのは、だいぶ直ってるかしら?」
 マクダからそんなふうに思われていたことなど知らなかったので、ユニカはどうしてよいやら分からない気分になった。それを聞いたクリスタが面白げに笑っているのでなおさら照れくさい。

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