みんなのおもわく(1)
第3話 みんなのおもわく
十日でドレスを仕上げると言ってくれたマクダだったが、もはや一刻の猶予もないのは事実だ。
採寸のために選んだ部屋は、一番着替えがしやすいユニカの部屋だった。ユニカはそこで肌着姿になり、マクダに指示されるまま背筋を伸ばしたり腕を上げたりしていた。
開け放った窓からは夏の風が爽やかに吹き込んでくる。くつろげる部屋に昔の顔見知りであるマクダがいて、しかも自分が採寸などされているなんて。あまりにものどかで、夢を見ているようだった。ユニカは束の間、自分がどこでどんな暮らしをしているのか忘れかけてしまった。
ここが王太子の宮で、自分がそこで暮らしていて、マクダにドレスを作って貰う立場になっていることの方が冗談みたいだ。マクダはそんなふうに思っていないのだろうか。
屈んでユニカの足の大きさを測っていたマクダに聞いてみたい気がしたが、ユニカの口をついて出たのは別の質問だった。
「いつからアマリアにいらっしゃるようになったんですか?」
「ほんの三年前だよ。だからここではまだまだ駆け出し。クリスタお嬢様のようにたくさんご注文くださるような顧客は、まだそんなにいないんだよ。はい、次はもっと胸を張って立って」
軽く背中を押されて、ユニカは息を吸い込み胸を張った。マクダの持っている巻尺が肩に当てられるのを感じる。
読み上げた数字を紙に書き込んでいるのは、マクダの助手ではなくクリスタだった。彼女はテーブルのそばに座り、ユニカに再会の挨拶をした時と同じようきうきした顔だ。こんな作業はしたこともないだろう。それが面白いらしい。
「きっとすぐに流行るわ。仕事が早いし、お針子達もとても感じがいいんだもの。マクダ、忙しくなってもわたくしのドレスは作ってくださいね」
「もちろんですとも。来年の大霊祭の晴れ着もぜひご注文くださいな。はい、少し腕を上げて」
くすぐったいのは、二の腕、肘、と細かく巻尺が絡んでくるからだけではない。冗談みたいな状況ではあるが、マクダが昔と同じように気安い言葉で話しかけてくれるのが嬉しかった。
こんな会話が出来るのはエリュゼがいないからだ。これからほとんど毎日仕立ての作業が必要になるので、ひとまずは明日の通行証の発行を頼みに行って貰った。
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