天槍のユニカ



再会(17)

「そんなことなら先に言ってくれればよかったのに! そなたが何かよからぬことを企んでユニカ様に近づいたのかと思ってしまったわ」
「申し訳ございません。お嬢様のおっしゃるユニカ様≠ェあのユニカなのか確証がなかったし、あたくしみたいな一介の商人と知り合いだなんて周りに知られたらユニカ……様が迷惑かも知れないし」
 マクダはエリュゼに睨まれて様≠付け加えると、不意に縮こめていた肩を開いた。
「だけど、ひと目でいいから確かめたいと思って。迷惑そうな顔をされたら、あとはルイーゼかニナに仕立てを任せるつもりでした。でも、あのユニカに間違いない、しかも、元気そうで、こんなに立派になっていたから、我慢できなくって……っ」
 最後は涙声になり、マクダはせっかく伸ばした背筋を再び丸めて鼻をすする。
 すると根が素直なクリスタも感極まるマクダから涙を貰ってしまったらしい。さっきとは違う表情で目を潤ませながら仕立屋の肩をさすり、ハンカチを差し出している。
 ひとまず騒ぎは収まった、とユニカは胸を撫でおろした。
「私も、マクダさんがお元気だと分かって嬉しいです。九年前の疫病の混乱で、ご無事かどうか分からなかったから」
「ええ? おかしいね。あたし、あれから何回かエリーに会ってるよ。あんたがお城にいるっていう話も聞いてたんだ。だからてっきり、あたしが無事だってことも伝わってるんだと思ってた」
「……聞いていませんでした」
「あのトンチキめ、言い忘れてるね」
 小鼻を膨らませて怒る顔がすっかり昔のマクダのままで、ユニカは嬉しくなる。エリーアスがとても大事なことをユニカに伝え忘れていたことは後日問い詰めよう、と決意するが、喜ばしい再会の前ではユニカもエリーアスに寛大になれるだろう。
 しかし、ユニカに対してぞんざいな口を利き、堂々と僧侶を侮辱した罪を見逃さない者もいた。
「事情は今ほどユニカ様からお聞きして分かりました。ですが、昔なじみとして口を利くのはこの場限りになさい。ユニカ様は、今はエルツェ公爵のご息女で、王太子殿下のご寵姫です。本来ならお前がこうして話を出来る相手ではありません」
 エリュゼの厳しい命令に、マクダは首を竦めて若い伯爵を横目に見る。それでも、彼女の緊張がすっかり緩んでいるのは間違いなかった。

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