再会(16)
マクダも途方に暮れている。その視線がちらりとこちらを捉えてまたすぐに逸らされたのは、ずっと彼女を見ていたユニカにはすぐに分かった。
助けを求める視線ではないだろう。ただ昔のようにこちらを見て話そうとしただけ。しかし、それが出来ない立場だとマクダは分かっているのだ。ユニカも遅れて気がつき、ちょっとだけ悲しくなった。
「クリスタさん、その人は、私が故郷で暮らしていた時に女性達を縫いものの仕事で雇ってくれていた服飾商の人です。さっき話に出た、知り合いにいたという女性の仕立屋はその人なのです」
「えっ?」
潤んだ目をまん丸にするクリスタの隣で、マクダも驚き、青ざめた。そして小さく首を振る。それ以上は言わないほうがいい、と伝えたいのだろう。
「大丈夫ですよ。私が本当は貴族の娘ではないということは、ここにいる人はみんな知っていますから」
とはいえ、昔の話をしてもいいか、と、エリュゼにそっと相談してみた。
彼女は少し考え込んだ後、警戒感をあらわにしたまま応接間の扉と、テラスへ通じる硝子扉の前を塞いでいた騎士達を呼び集めた。どう見でも他者の侵入やマクダの逃亡を防ぐ物々しい配置でいた彼らは、エリュゼと低い声で話しながら少々ざわついた。
それでも何らかの決着がついたらしく、クリスティアンを残してラドクとフィンは外へ――庭と廊下へ別れていったので、まだ警戒しているらしい――、ついでにディディエンも出て行った。
部屋にいる人数を減らしたエリュゼが頷いたので、よいということだろう。
マクダに立ったままそこにいられてはユニカも落ち着かないので、嫌がる彼女を宥めすかして同じテーブルに座らせる。
エリュゼにじっと見つめられ、クリスタにも驚きと好奇の目で見られながら居心地悪そうにしているものの、ユニカの記憶の中にいる服飾商とあまり変わらないマクダの姿が嬉しくて思わず笑みがこぼれる。
そうして、ユニカはかいつまんでマクダのことをクリスタに話した。ユニカが王妃に引き取られる前にビーレ領邦の辺境で暮らしていたこと、マクダはそこへ出入りし、村の女達に仕事をくれる商人だったこと、子どものユニカが作ったものも商品として買い取ってくれたことなど――聞き終えると、クリスタの懸念は晴れたらしく、彼女はただただ偶然にびっくりしながらユニカとマクダを交互に見比べた。
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