天槍のユニカ



再会(4)

 そして迎えた大霊祭最大の祭事が行われる日。この日は王と王太子が、王族として大教会堂を公式に参詣する日だ。
 閲兵式と朝食のあと、ディルクは礼拝用の衣装に着替えていた。晴れの日にふさわしい白を基調とした衣装はよく似合っていて、多分、見る人が見ればうっとりしてしまうほど見栄えがする。だというのに、着ている本人は憂鬱そうだった。
「本当に一緒に行かないのか?」
「私は昨日行ってきたもの。エルツェ家の人達と一緒に」
「何度行ってもいいと思うけどな。君の姿が見えたらパウル大導主も喜ぶだろう」
 見送りに来ていたユニカはそう言われて曖昧に笑った。
 今日の礼拝に一緒に行かないかとディルクは何度も誘ってくれたのだが、ユニカはそのたびに断った。王家の行事でないとはいえ、王族の公式な活動についていく資格などユニカにはない。
 交わらないところは、少なくとも自分の中で決めておかなくては。
「そうは言うけど、今日の午後は空けておいて欲しいと言ったのはディルクよ。そちらの話はどうするの」
 ディルクの頼みを盾にかわすと、彼は苦笑した。そろそろ出発の時間も迫っている。ユニカに行く気がないことを受け入れる気になったのか、まだ眉尻を下げながらも「わかったよ」と言って肩をすくめた。
「夕方には戻るよ。ユニカも楽しんで≠ュれ」
 そうして別れの挨拶代わりに頬と唇にそっと口づけてくる。
 もはや欠かせなくなったその儀式を終えると、ユニカは王太子殿下を見送りながら怪訝に思った。



 大霊祭の最も重要な祭事が行われる主祭日である今日は、家族や近しい身内と集まる者が多い。
 侍女のリータとフラレイは昨日から城を降りているし、エリュゼとディディエンでさえ「今日の午前は暇が欲しい」と願い出てきた。クリスティアンもいないので、多分、エリュゼの一家にクリスティアンも混じって大教会堂へ礼拝に行ったのだろう。
 エルツェ家も例に漏れず、今日は親族が屋敷に集まるらしい。継父たる公爵はそこで殿下に気に入られたうちの娘≠見せびらかしたかったのだろうが、ユニカに見せびらかされるつもりはなかったので、今日の宴席への参加は断った。

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