天槍のユニカ



再会(3)

「伯爵、ユニカのドレスにそういう柄のは?」
 エリュゼはしばし考え込んだ。ユニカは自分がどんなドレスを持っているか覚えてもいないが、エリュゼは覚えているらしい。衣装部屋にある、ユニカが着たことのないドレスの色柄まで記憶から掘り起こしている。
「夾竹桃(オレアンダー)の柄はありますわ。季節的には蔓薔薇でも問題ないかと。ただ、どちらも織物ですが……」
「じゃあだめね。どうにかして新しいのを用意しないと。そのへんだけはディルクに相談しましょう」
「そのへん?」
「お茶会用のドレスを買って、っておねだりするのよ」
 レオノーレが満面の笑みを浮かべるのとは反対に、ユニカは食べたりんごが思いっきり酸っぱかったような顔をした。
「無理よ」
「何が無理なもんですか。ユニカからおねだりされてディルクが喜ばないわけないじゃない」
「肝心なところは相談しないのに、そういうところだけ……」
 それではあまりに虫がよすぎるではないか。
 そもそも、ディルクのところで暮らしていることが令嬢達の反感を買っている原因だというのに、王太子に買って貰ったドレスなど着ていったら火に油ではないだろうか。
 そう言うとレオノーレは鼻息を荒くして反駁した。
「ディルクの寵愛を見せつけておいた方がいいわよ。コルネリアやラビニエとかいう小娘はともかく、そういう中心人物になびいてるだけの連中はもっと仲良くする価値≠ェある相手を見つけたら簡単に寝返るはず」
 派閥抗争を引き起こすつもり満々のレオノーレに押し切られる形で、ともかく衣裳の用意はユニカからディルクにおねだり≠キることになってしまった。
 時間もないので早く! と念を押されたが、その日も、翌日も、翌々日も、結局ユニカは言い出せなかった。


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