天槍のユニカ



蜜蜂の宴(18)

 理由もなくその情報が光って見えることはないはずだ。ユニカの様子を見てますます気になるから何かある――気がする。それとも、単にコルネリアの来訪でどうでもよい記憶が浮上してきただけなのか。
「コルネリアとやらが単純にユニカに嫌味を言っただけなら――よくはないが、まだ、いい」
 本当は二度と王城へ近づけないように貴族社会の中から抹殺してやりたいが、ディルクがそこまでしなくてもユニカを守る方法はあるし、ディルクの代わりにコルネリアと同じ土俵でユニカの力になってくれる女性達もいる。
 問題は、コルネリアや彼女の父が、ディルクの敵だった場合だ。
 そこにあるのが浅はかな悪意ではなく明確な敵意だったら、手は打たねばならない。
「また接触があるようでしたら、今度はきちんと話が聞こえる距離で待機しましょう。ほかの者にもそう伝えます」
「まぁ今日のところは、落ち込んでおられるユニカ様のおそばへいらっしゃって、よくよく慰めて差し上げるのがよいのではないですか」
 アロイスがにやにやしてクリスティアンが呆れるのを見なくても、ディルクはそうするつもりだった。周りに誰もいなければ何か話してくれるかも知れないし、そうでなくても、このひと月は穏やかに笑っていたユニカのあんな顔を久しぶりに見たら、抱きしめずにはいられない。
 その前に、ディルクはふと思い立って机に戻り、便箋にペンを走らせ始めた。
 こういう時のためにつくっておいた女友達を、今こそ頼るべきだと思いついたのである。


     * * *


 さして大変でもない文学の課題を終えると、ユニカは寝台の上で小さく丸まるように横たわって毛布を被った。
 ディルクのことだ、ユニカの挙動がおかしいことになどとうに気づいているはずだった。どうしたのか問い詰めてこなかったのは様子見のためだろうが、話しづらいことだったので何も聞かれなくてほっとした。

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