天槍のユニカ



蜜蜂の宴(15)

「よっぽど話が弾んだんだな」
 上着を脱がせてくれるユニカへ肩越しに尋ねると、彼女は「うん」と言ったような唸っただけのような、曖昧な返事をした。そしてディルクの上着を抱え込んだまま黙ってしまう。
 上の空であることが、なんと分かりやすいのだろう。
「シャプレ伯爵のところの令嬢は、君になんの用だって?」
「お茶会をするそうよ。それで、私宛ての招待状を持っていらしたの」
 ユニカを茶会に招待? ディルクの頭に真っ先に浮かんだのも、彼の妹と同じ疑問、それから疑念だった。
 一部は自分で振りまいた問題の種であるのだが、若い娘達がユニカのことを歓迎しているとは思えない。彼女ら≠ノは自分達と違うものを迫害する習性と、自分より幸せな者を妬む習性がある。よほど広い心を持っているか自分も変わり者でない限り、ディルクには彼女らがユニカを受け容れてくれるとは思えなかった。
 そして、ユニカがそのことに気づいていないとも思えない。
「その顔を見るに、行くことにしたんだな」
「どうしてそう思うの?」
「行きたくないなという顔をしている」
「……」
 ユニカは沈黙してしまった。多分、図星なのだ。
 これはまた妙な我慢を覚えてしまったものだ。ディルクは困ったなと思いながらうなじを掻いた。
「無理に貴族達と付き合う必要はないよ。少なくとも今は……公爵夫人のご友人方にいろいろ教わってからにしたらいい。楽しみ方が分かってきてからでも遅くない」
「大丈夫。レオも一緒に行くことになったから……」
 それを聞いてディルクは思わず顔をしかめた。普通の¥覧F達がいないレオノーレが一緒に行くというのは不安材料にしかならない。
 娘達の集団には必ず親玉(アルファ)が存在し、それこそ狼の群れのように序列がある。レオノーレは集団に属していてもいなくても親玉にしかなれず、娘達の秩序の中に親玉どころか転がる鉄球のような勢いと破壊力で突っ込んでいくことしか出来ない。多数の人間と付き合うことに不慣れなユニカの補佐あるいは護衛としては、あまりに役者が不足している。

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