天槍のユニカ



蜜蜂の宴(14)

 黙って話を聞いていただけのレオノーレが、音を立ててカップを置いたのはその直後だった。
「伯爵がだめでも、あたしはもちろん行ってもいいわよね?」
「まぁ、公女殿下がですか……? やかましいだけのお茶会ですのに」
 コルネリアは可愛らしく眼を丸くして見せたが、突然立ち上がったレオノーレの威圧的な視線にうろたえる。
「やかましくて上等よ。あたしもあなた達と同じ小娘£間なんだから。それとも、次は大公家の人間はだめだとでも言うのかしら」
「まさか。ですが本当に、令嬢方が集まっておしゃべりに興じているだけですのよ。殿下のお楽しみになりますかしら……」
「楽しむ方法はいくらでもあるわ。ねぇユニカ」
 ユニカはぎしぎしと音を立てそうなほどぎこちなく頷く。対するコルネリアは一瞬目元をひくつかせたように見えたが、すぐに薔薇を思わせる華やかな笑みと鈴を転がすような声でレオノーレの調子に合わせた。
「では、ラビニエ様に殿下のことをお伝えして、招待状をもう一通ご用意いただくようにお願いいたしますわね」
 結局コルネリアはエリュゼ一人を仲間はずれにし、一見して上機嫌に帰っていった。



     * * *



 ユニカを侍女として雇ったわけではないのだが、部屋へ戻ると彼女がいつも出迎えてくれるのがディルクのこの頃の楽しみだった。
 ところが、今日はそれがなかった。いや、ディルクの戻りを聞いてユニカはすぐに顔を見せてくれたのだが。
 彼女は今日、午後から外出していたわけでもないのにちょっとだけ遅れた。ディルクはそれがふと引っかかった。どうやらつい先ほどまでエリュゼやレオノーレがいたらしい。
「こんな閉門間際まで。珍しいな」
 もっとも、レオノーレは外郭にある迎賓館をシヴィロ王国での根城にしているし、エリュゼにも外郭の館に部屋を与えそこで生活させているので、二人ともエルメンヒルデ城の中にいるようなものだ。ただ、日暮れを過ぎて各階層を結ぶ門が閉じられると、いちいち身分の照会が必要になり途端に行き来がしにくくなる。そうなる前に、二人に限らず城内で過ごす人々は閉門の時間を気にしながら生活する。

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