天槍のユニカ



蜜蜂の宴(13)

「作法に明るくない方が、どうして王家の宮にお住まいなのかしら」
 広げた扇の陰で、コルネリアがくすりと笑う。
 凍り付いたユニカに向けられた彼女の視線にははっきりと冷たい悪意がにじんでいた。
「あなた――!」
「ラビニエ様のお父君は、王家の軍の要職に就いておられるお方です」
 エリュゼの言葉を遮った娘の言葉は鋭利な刃物そのものだった。それがまっすぐ自分に向けられたのを悟り、ユニカは久しぶりに身がすくむのを感じた。
 ここしばらくは、自分が好きなものと、どうやらユニカを好いてくれている人々に囲まれていたために、向けられていることを知らずに済んだ敵意。
 たった数ヶ月のうちにその免疫を失ってしまっていることに動揺しながら、ユニカは膝の上で重ねていた手を握りしめた。
「ジンケヴィッツ伯爵も、王太子殿下がどのような女性をお召しになったのか心配なさっているようですわ。ラビニエ様から、ユニカ様の人となりを伝えていただくよい機会ではございません? 城にこもるか、病人の集まるところを訪ねるばかりではなくて、きちんと社交の出来る方だと分かれば安心する臣下は伯爵のほかにもいらっしゃると思いますの」
 ふふ、と響くコルネリアの笑いには、すでに刃の気配はない。だが。
 突然ディルクの隣に収まったユニカを、少なくとも同世代の娘達がよく思っていないことははっきりした。そして、その誰とも交流を持とうとしていない自分が異質で、ディルクのそばにいる資格を認められていないこともだ。
 加えてジンケヴィッツ伯爵なる人物が軍の要職に就いている≠ニいう言葉もユニカの耳に残った。
 王から兵権を預かっているというディルクの職務や立場に、自分が悪い影響を与え始めているのではないか、と、そんな想像が何よりユニカを震え上がらせた。
「そう、ですね。では、ラビニエ様のお招きにあずかります。不慣れゆえに粗相があるかも知れませんが……」
 少しくらい我慢して彼女らに付き合うことで、それが防げるのなら。
 ユニカはか細い声で応えた。コルネリアは愛想笑いすら忘れて蒼白になっているユニカを満足げに眺めている。

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