天槍のユニカ



蜜蜂の宴(12)

「来てくださるでしょう?」
 行かない、と即答するつもりはなかったが、今の時点でコルネリアの調子についていけていないのでユニカは急速に自信を失った。
 少しは人と話せるようになったつもりだったが、それはエリュゼやディルクや、エルツェ家の人々限定だったと今さら気づく。
「コルネリア様、ご用件はしかと伺いましたわ。ですがユニカ様は、これまで姫君方とお付き合いしたことがございませんでした。顔見知りのいない席ではご不安でしょうから、わたくしも同席させていただきたいのですが」
 代わりに口を挟んだエリュゼの台詞は予定していたものだった。きなくさい≠フでエリュゼも同伴したいことを申し出る――申し出れば断られはしないだろうという見込みだったのだが、
「あら……残念ですが、プラネルト女伯爵にはご遠慮いただきたいですわ」
 コルネリアはきれいに整えられた眉尻を下げてそう言った。
「これは令嬢&の集まりですもの。すでに位をお持ちの女伯爵は、いわばわたくしのお父様と同じ立場のお方……陛下の直臣でいらっしゃるのですから。そうのような方がいらしてはわたくしたちのような娘は緊張してしまいます」
「な……」
 その王の直臣からの申し出を無礼にも平然と蹴ったコルネリアは、お招き出来なくて心底残念だと言うように肩を落とした。
 そんな顔をされてはエリュゼはそれ以上食い下がれない。そうと分かってこんな顔をするのなら……ユニカはコルネリアを盗み見ながらそわりと悪寒が走るのを感じる。
 そして、レオノーレがきなくさい≠ニ言った理由が、コルネリアらの意図がわずかに見えてきた。
 これまで、ユニカが宴に出席する際はエリュゼかエルツェ公爵夫人が必ずそばに付き添ってくれていた。そうすることで興味本位に近づいてくる貴族や公爵夫人の知人との間を取り持って貰い、ユニカはようやく彼らと挨拶やちょっとした会話を交わすことが出来たのだ。
 その二人が参加できない条件の宴にユニカを招く……会場でユニカを孤立させて、彼女達はどうするつもりなのだろう。
 エリュゼも今やはっきりとコルネリアの意図を察したようで、怒りに頬を赤らめていた。
「わたくしを陛下の直臣と分かっているのなら、断るのは無礼ではありませんか。それに、わたくしはユニカ様のお母上であるエルツェ公爵夫人ヘルミーネ様から、貴族の作法にまだ明るくないユニカ様をご指導するよう任されています。ぜひとも、お招きいただかないと」

- 1210 -


[しおりをはさむ]