蜜蜂の宴(10)
* * *
ユニカを訪ねてくる者は必然的に王城へやってくることになる。しかし、そのうち王太子の住まいである東の宮まで入れる人間はごくわずかだ。
例えばユニカの家族であるエルツェ公爵家の人々、ユニカの侍医になったヘルツォーク女子爵。パウル大導主の遣いとしてやってくる少年僧のフォルカも、ユニカの部屋まで大導主の書簡を届けに来ることを許されていた。
エリーアスは導師になるための試験の最中で忙しいからか、このひと月はユニカに会いに来てはくれなかった。施療院にも出入りする暇がないほど勉強に必死らしく、彼の消息はパウルや弟子のフォルカから伝え聞くだけである。とりあえずは元気らしい。
それはさておき、東の宮でいわば居候生活をしているユニカがディルクの許可なく客人を招くわけにはいかないので、コルネリアと会うのは外郭の一画にある庭園を指定した。
夏の花々が白亜の四阿を取り囲む庭で、四阿のそばには水の女神の像が腰掛ける優美な噴水もあって涼しげである。
そういう場所選びから値踏みされるのだというレオノーレの助言に従い、エリュゼが気合いを入れて選んだ。
ユニカは「そこでよい」と言っただけだったが、まずはコルネリアのお眼鏡にかなったらしかった。
「お城の中にはこんなに美しいお庭がありますのね。使われていないなんてもったいないですわ。王妃様がご存命の頃、母は度々園遊会にお招きいただいてお城のお庭も楽しんでいたそうです。早くそんな時代になればよいですわね」
四阿へ渡るまでの間、並んで歩くコルネリアは日傘の陰でそんなことを言った。
王室に王妃も王女もいないシヴィロ王国の宮廷は、貴族女性の遊び場としてはすっかり廃れてしまっていた。次にコルネリアが言うような時代が来るとしたら、それはディルクが正妃を迎えた時だろう。
自分がそんな宴を主催することなどあるはずもないと思えば、ユニカは曖昧に笑い返すことしか出来なかった。笑い返せるだけ自分ではものすごい進歩だと思っているのだが、肩越しにちらりと覗ってみたレオノーレがじっとりと目を据わらせている。これではだめらしい。
- 1208 -
[しおりをはさむ]