天槍のユニカ



蜜蜂の宴(6)

「まぁ、身元が知れている人間と会うくらいならなんの危険もないだろうが……用件は?」
 知らなかったので、ユニカは正直に首を振った。エリュゼも同席してくれるというし、クリスティアンをはじめとする六人の騎士達は変わらずユニカの護衛をしている。彼らにみんな任せるつもりで、ユニカは客人の用件より、大霊祭までに頼まれていた布の花飾りをあといくつ作れるかを気にしていた。
「用件も聞かずに会うのか。俺の昼寝にも付き合ってくれないで。いや、俺も同席しようかな。静かに寝ているよ」
「やめて」
 客人の前で寵姫の膝枕をごろごろ楽しんでいるディルクを想像するとなかなか現実味があったので、ユニカはぴしゃりと断った。



* * *



 用件が分からないまま相手と会うことにしたのは、実を言うと妙な話を持ちかけられる予感があったからである。といっても、その予感を覚えたのはユニカではなく、コルネリアからの手紙が届いた場に居合わせたレオノーレとエリュゼだった。
 読んで首をひねるばかりのユニカから手紙を奪い取り、ユニカの都合に合わせるのでぜひ、と強く強請っている文面を追いながら公女殿下は意地の悪い顔で笑った。
「きなくさいわね」
「どのあたりが?」
 なぜ名家の姫君がユニカと話したがるのかが不思議でこそあっても、別にレオノーレが言うようにきなくさく≠ヘない。と思う。
 ところが、ユニカに断って内容を検めたエリュゼもなんだか不穏な顔をした。
「ユニカに会いたいっていうのが、もう怪しいでしょうが。自分の家の血筋や地位を誇るしか能のない小娘が、どうして急にユニカと仲良くしたくなるの?」
 レオノーレがその疑問を抱くところまではユニカにも理解できた。
 ついこの間まで王城の禁忌であったユニカに、エルツェ公爵の養女でしかないユニカに、普通の°M族の娘が好感を抱いてくれるとは思えない。ましてや独り身である王太子の寵姫の座に滑り込んだのだから、理不尽でも恨まれる方が自然な気がした。

- 1204 -


[しおりをはさむ]