天槍のユニカ



蜜蜂の宴(5)

 身勝手だと思える言い分をうやむやにせず伝えられたおかげで、この一月のユニカの心は非常に穏やかだった。
 また誰かと生活をともにしていることは驚くべきことで、まさか相手が王太子だなんてますます信じられないが、妃ではないおかげでユニカは本当にディルクと寝食を共にしているだけ。
 好きなところへ出掛けて、帰ってきたら好きな人の戻りを待ち、出迎える毎日。穏やかでいられないはずがない。
 しかし、ディルクと朝食をとるのは実は三日ぶりだった。この頃、彼は朝食の時間を王との打ち合わせにあてねばならなかったらしく、それゆえ昨日などは朝も夜も顔を見られなかった。そして、ディルクがそのことに堪えられなくなってユニカの寝床に潜り込んできたのだ。
 今日も、ディルクは自分の住まいで遅い朝食をとれたとはいえ、食事の間にも侍従のカミルと予定の確認をしている。その侍従が去ったのを見届けてからユニカは言った。
「忙しいのね」
「ああ。いつも今日くらいゆっくり過ごさせて欲しいんだが……」
 今日みたいなのはたまにでいい気がする。ユニカは王城の果樹園で採れたプラムを相槌も打たずにかじる。
「ユニカは、今日の午後も外出? 違うのか。誰だこれは?」
 三日分のユニカ不足はまだ補い切れていないらしく、王太子殿下はカミルが置いていった予定表をめくって不満げに眉根を寄せた。そこにはクリスティアンが提出した、警護のために必要なユニカの動向が簡単に書かれている。
 午前はいつも通り授業が二つ。午後には来客の予定。
 ディルクは昼に宮へ戻ってきてユニカの脚を枕に午睡を楽しむつもりだったのだろう。それが叶わないと知るや、彼は午後からユニカを訪ねてくる女性の名前を敵のように睨んでいる。
「私も知らないのだけど……」
 いや、もしかするとくだんの女性とは新年の宴で挨拶くらい交わしたかも知れないが、あの頃のユニカにはまるで余裕がなかったので大勢いた相手の顔はほとんど覚えていない。そのうちの一人かどうかは定かではないが、シャプレ伯爵家のコルネリアと名乗る姫君から、「お会いしたい」との申し出があった。
「どこかの伯爵家の人なら怪しい人ではないだろうし……」

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