天槍のユニカ



蜜蜂の宴(7)

 ただ、ユニカが想像できたのはそこまでだった。
 普通≠ゥらかけ離れている姫君のレオノーレは、長椅子に寝そべり、肘掛けにその美脚をのっけるというとんでもない格好でテーブルの上からお菓子を掴み取った。
「これは友好的な手紙じゃないわよ。何かあるわ」
「何かって?」
「もう、ユニカってばディルクとうまくいってるからって警戒心が緩みすぎ。女の喧嘩は、男と違って必ずしも攻撃から始まるとは限らないのよ」
 自覚があるところを突かれたのでユニカはつい押し黙った。それにしても、レオノーレの説明はいまいち核心に触れてくれないのでもどかしい。
「ユニカ様の前でお聞きするのもなんですが……実際のところ、世間での評判はどんなところなのです?」
 恐る恐る尋ねるエリュゼと一緒にユニカも肩を強張らせる。
 ユニカがディルクの住まいへ迎えられたことを周囲がどう受け止めたのか。
 気にならないわけではなかったが、ディルクは「気にすることじゃない」と言うばかりだし、ユニカ自身も貴族の集まりに顔を出すわけでもないし。施療院はユニカの身分になど構わずいつでも平和で(今は別の意味で戦場のようになっているが)、人々の反応を知る術がなかった。
「伯爵はもっと貴族の付き合いを大事にすべきね。こういう時こそ率先して情報収集に出向かないと」
 レオノーレはエリュゼにちょっとした説教を垂れ、お茶で焼き菓子の残りを喉に流し込んでから姿勢を正した。
「そりゃあはじめの十日ほどは酷いもんだったわよ。みんな事情を知りたいからあたしに群がってくるっていう意味でね。会う人会う人に『ところで……』ってユニカやディルクのことを聞かれるんだから。でも、あたしもディルクもはぐらかすし、当のユニカがどこにも姿を見せないから悪口のネタも尽きてくるし」
 さりげなく批難されていたことを知らされちくりと胸を刺された気分だっが、その後に続くレオノーレ情報に比べれば些細なことだった。 
「まぁそれよりも、エルツェ公爵が二人は感動的な大恋愛の末に一緒に暮らすことを陛下にお許しいただいたんだって涙混じりに宣伝してたから、みんな閉口しちゃうのよね。陛下のお気に入りである公爵が言うと面と向かって批難も出来ないし、そんなロマンスがあったなら仕方ないって信じちゃうおめでたい連中もいるし。ユニカが公式の場に出てこないから『寵姫の分際で!』なんて言うことも出来ないでしょ?」

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