蜜蜂の宴(3)
ツェーザルが事務的な伝達を終えて立ち去ると、ディルクはそれまで堪えていたと思しき鬱憤を長い長い溜め息で吐き出した。
「俺が説明すると言ったのに」
「仕方がないわ。陛下の言葉を伝えるのも侍従長の仕事なのでしょう?」
「だからってああいう言い方は……いや、君に公的な立場を用意する力が俺にはないっていうことは、そういう情けのない話は、俺が自分でしなくちゃならなかった」
いらだちのまま前髪をかき乱しているディルクの横顔を見つめ、ユニカはふと笑ってしまった。おかしかったのではない。彼がユニカを戯れでそばに迎えたのではないことを、その表情が十分に伝えてくれたからだ。
そして、王は戯れでないことを許さなかった。結論と理由はツェーザルが述べていった通りである。
歯がみするディルクには申し訳ないのだが、ユニカは妃の身分が与えられなくて心底よかったと思っていた。そしてそう思っていることを隠さずにいることが、ディルクの想いへの応えとして相応しいとも。
「情けなくなんてないわ。私も王太子妃になるつもりはないもの。あなたの言葉がもう少し違っていたら、私はここへ来なかったと思う」
頭を抱えていたディルクは弾かれたように顔を上げた。驚きと不安で翳った瞳にユニカの陰が揺れている。
「ここへ来たのはあなたと暮らすためで、あなたの妃になるためではないわ。都合がいいのは分かっているけど、……でも、ごまかしておきたくないから言います。私がここで暮らすのは、それが許される間だけ」
「それは、俺がいずれほかに妃を娶ると思っている、ということか?」
ユニカが頷けば、ディルクは再び頭を抱えて髪を掻き回した。
「ユニカ以外をこの宮に住まわせる気はないよ」
そういう気持ちが嬉しくはあったが、やはり応えられるとは想像も出来なかった。
悲しみは少し。けれど今は、ディルクが一緒にいて欲しいと言ってくれたことを素直に嬉しいと感じられる。
それでも、いつかディルクは将来の国母に相応しい女性を見出すだろう。それはユニカの確信であり、国にとって必要なことだ。ディルクがそれに背くような世継ぎではないことを、むしろユニカは願っている。
そして、その国母に相応しい女性は。
「私ではだめよ。陛下の命を貰い受けると言っていた私が、いずれ王妃になるような立場に収まるなんて」
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