天槍のユニカ



蜜蜂の宴(2)

 そんな、朝はかなりのんびり起きることが許されているユニカが先に目覚めてしまったなんて。
 何度か肩を揺すると、ディルクは眉根を寄せながら眠たげに片目だけを開けた。
「寝坊じゃないよ。夕べは遅くなると分かっていたから、ちゃんとラヒアックに閲兵式を代行するように言ってある」
 彼は上半身を起こしていたユニカの背中に腕を回し、あっという間に引き倒した。そうして次の瞬間にはユニカの方が寝台の天蓋とディルクを見上げていた。
「それなら、よかったけど……」
 ディルクの手が、腿を伝って寝間着の裾をたくし上げていることに気づいたユニカは息を呑む。
「ね、寝ぼけないで。もうすっかり明るいのに」
 慌ててその手を押さえつければ、目を細めたディルクはユニカの頬に口づけ、そのまま耳朶を唇でなぞりながら囁いた。
「もう目は覚めたよ」
 組み敷かれたままそう言われ、ディルクの手が直に太腿を撫でると、ユニカは諦めて彼のしたいように任せた。


* * *


 ユニカがエルツェ家の屋敷から東の宮へ連れてこられた翌日の夜。侍従長ツェーザルが二人を訪ねてきた。
 ディルクがどういった形でユニカを迎えるか――王に代わって、その立場を説明するために。
 曰く、ユニカは王太子妃ではなく、ディルクが個人的に召し抱えた愛妾に過ぎないのだそうだ。婚姻関係は認められないため王家の一員には数えられず、以前のような義務もない代わりに何の権利もない。
 公爵家の姫君ならばすぐに妃に迎えるべきところだが、そうしなかったのはユニカがエルツェ家の血を引く娘ではないからである、とも。
 それはユニカも承知していることで不満もなかったが、ディルクはツェーザルの言いようが気に入らなかったらしい。彼はずっと若い侍従長を睨んでいた。

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