天槍のユニカ



蜜蜂の宴(1)

第1話 蜜蜂の宴

 
 ユニカが王太子の住まいである東の宮へ移ってから、そろそろひと月が経とうとしていた。
 数日後に迫った大霊祭のおかげで王都は再び賑やかになっている。しかし、大霊祭はあくまで教会の行事。王家主催の宴や儀式はないので、ユニカの暮らしは西の宮にいた頃と大差なく営まれていた。
 エルツェ公爵家から派遣される様々な分野の家庭教師の授業を受けねばならないが、そのほかの時間は自由だ。外出も好きなように出来るので、大霊祭の準備に追われる施療院の仕事を手伝いに行く日々。
 いや、布を預かってきて言われたものを作っていた頃に比べれば、施療院で繕いものをしたり野菜の皮むきを手伝ったりしているのは大きな違いかも知れない。ユニカが積極的に手伝いを申し出たわけではなく、少し前に訪ねた日、あまりの忙しさでてんやわんやしている僧侶達を見かねて食事運びを手伝ったのが最初。
 以来、ほとんど成り行きに任せてその日言われた仕事を手伝うことになっていた。
 城での暮らしに違いがあるとしたら、朝目が覚めた時、知らぬ間に寝台へ潜り込んできたディルクが隣で寝ている日があることくらいだ。
 今日もユニカは目を開けると同時に悲鳴を上げそうになったが、これも三度目なので驚きはすぐに引いていった。
 地方から集まった貴族達は毎日のように王都のどこかで宴を開いている。そういった集まりがお好きではないことで有名な国王陛下に代わり、誘いを受けるのは王太子殿下である。
 昨夜もそんな宴があると言っていたので、ディルクはユニカが就寝する前には帰って来なかった、ところまでは知っている。
 よっぽど遅かったのか、ユニカが隣で身じろぎしてもディルクは起きる気配がなかった。すうすうと寝息を立てて熟睡している彼の寝顔をしばし眺めていたが、ふと、すっかり夜が明けていることに気づいてユニカは蒼白になった。
「ディルク、起きて。寝坊しているんじゃないの!?」
 一緒に暮らし始めて知ったことだが、ディルクの朝はいつも早い。彼は夏の日の出とともに起き出し、城詰めの兵を集めて閲兵式を執り行う。それから一度宮へ戻ってきて、ようやくムニャムニャしながら起きたユニカと一緒に朝食をとって、政務に向かう。

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