愛しさの代償(1)
第9話 愛しさの代償
ユニカが手紙の封を切ったのは、夕食とその後の団欒の時間を終えてからだった。
先に開いたのはもちろんディルクからの手紙だ。クリスティアンが持ち帰ってきたということは、ユニカが出した手紙とは行き違い。返信ではないはずだが、なんの用だろう。預かってきた騎士の顔を見るに、よくない報せでないことは確かだが……。
読んでみると実に益体のない(と言ってしまうのはひどいかも知れないが)特別な意味のある手紙ではなさそうだった。
相手を女王のように奉り、離れてすごすことのさみしさやら切なさやらを書き連ねて恋人に送る手紙は、貴族社会でよく使うご機嫌伺いの形式だ。赤面せずには読めない文言の数々に、一人で読むことにしてよかったと思う。
こんなものを書くのにわざわざ時間を割いて、ディルクはちゃんと仕事をしているのだろうかと少し心配になる。もし、本当に手紙に書かれていたことでディルクの頭がいっぱいだったら大変だ。
しかし、忙しい中で、例えば今のユニカのように眠りにつく前にわざわざ机に向かってくれていたら、その気持ちは嬉しい。
手紙をしまう時、便箋からディルクの香水の残り香が漂ってきた。なんだかからかわれているような気分になりながら、次はエイルリヒの手紙の封を切った。
こちらは特に上等な封筒だったので、その場で書いたものではなさそうだった。
エイルリヒに会ったのは彼が帰国する直前。あれが最初で最後の会話である。
奇妙な縁があるのは間違いないが、それから数ヶ月はやりとりがなかったのに、何の用だろう。
大きな封筒だと思ったら、中からは便箋とさらにもう一つの封筒が出てきた。
宛名にはユニカ・リーゼリテ・エルツェ≠ニ、公爵家の養女としてのユニカの名前が書かれていた。差出人は、これもエイルリヒだ。
そしてもう一つ、中から出てきた封筒には招待状≠ニも書かれていた。
* * *
時を戻して、その夜の前日。
行軍訓練が始まって二日目となると、ディルクは王太子領の兵達がどれほど使えないのかを思い知るはめになっていた。
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