天槍のユニカ



寄す処と手紙(21)

「二人きりで、森で何を?」
 クリスティアンは鬱陶しげに目を伏せているだけだったが、エリュゼはそうはいかなかった。
「大きい怪獣のお二人におやつはなしです! 夕食まで我慢なさっていたほうが、食事がより美味しくてよいでしょうから!」

 

 おやつなしの宣告にうろたえる二人の騎士、怒りながら出て行ってしまったエリュゼを順に見遣り、ユニカは少しほっとした。
 エリュゼは結局ディルクのすすめに従うことにしたらしい。でも、自分で世話を焼くと決めたユニカを差し置いてクリスティアンに先にお茶を振る舞ってしまうくらいだから、決して不本意ではなさそう。
「お帰りなさい、侯爵。行軍訓練はどんな感じだった? シヴィロとウゼロで、どちらが強いか決めたりするのですか?」
「私は訓練を見ておりません。ですが、戦闘訓練はないと聞いています」
 クリスティアンの後ろでは「お前が余計なことを言ったせい」「いやお前が」と騎士達による罪のなすりつけ合いが始まっていた。そんな部下達をまったく無視して、彼はアルフレートの問いに答えている。
「ユニカ様には、帰着のご報告が遅くなり申しわけありません。真っ先に伺うべきところでしたが……」
「気にしないで。行ってすぐ帰ってきて疲れているだろうし、休憩は必要だわ」
 エリュゼとのことには何かお祝いの言葉をかけるべきだろうか。ちらりとそう考えたが、まだ二人の口から報告があったわけではないので差し出たことは言わないでおこう。
 それより、ディルクは元気そうか、ユニカが送った遣いはちゃんと着いたか、そんなことを尋ねようと思って、やはり口を噤むことになった。行って帰ってきた≠セけのクリスティアンには分からないことだ。
 結局、ユニカは手持ち無沙汰な手を膝の上で擦り合わせるだけになった。
 ところが、ユニカが訊くまでもなくクリスティアンの口から王太子の名前が出てきた。
「ディルク様からのお手紙を預かってきました。それと、エイルリヒ様からも」
 しかし、嬉しくなるより先に思いがけない名前も聞こえたので、ユニカはきょとんとしながら目を瞠った。
「公子様から……?」
 受け取った二通の封筒には、それぞれ王家と大公家の紋章が入っている。
 並んだ獅子の紋章は、以前にこの兄弟から連名の招待状を貰ったことを思い出させた。






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