天槍のユニカ



寄す処と手紙(14)



 かれこれ二時間もすると、鍋から溢れかけていた苺はぐんとかさを減らし、大きな寸胴鍋で五つ分ものジャムが出来上がった。
 女達のおしゃべりは、ジャム作りの間中、絶えることがなかった。夫や兄弟の愚痴、恋人との惚気話、そういう会話が特に弾んでいたのは、やはり男性を厨房に入れていないからだろう。
 中にはまだ実っていない恋の話もあったり、ユニカやディルクが連れてきた騎士達が品定めをされていたり。
 若い娘達にとって、都から来た騎士達はずいぶん眩しい存在のようだ。
 特に熱心に彼女らと親交を深めようとしていたアロイスなどは、いつの間にか娘達に似顔絵を描いて配っていたらしく結構な人気。
 ラドクとルウェルは話の種が豊富でおしゃべりが面白い、フィンはレオノーレのあとをついて回る姿が子犬のようで可愛い(実際は引きずり回されているだけである)、リヒャルトは湖を眺めている姿がよく目撃されていたらしく、物憂げな表情がすてきだった、とのこと(レオノーレ曰く、筆無精なので婚約者に返す手紙の文面に悩んでいるだけらしい)。
 四十を超えた貫禄のあるカスパルも同世代のご婦人方に「あたしもあんな人を亭主にしたかった」と言わしめているし、クリスティアンの優しげな雰囲気は、特に何もしていなくても皆から好評だった。
「王太子殿下は、不思議な方よねぇ。とってもきれいで、お世継ぎらしい落ち着いた方だと思ったら……」
「ねぇ。宴の席ではあんな……」
 背後にいる娘達のひそひそ話が不意にはっきりと聞こえた。
「なぁに? 何かあったの?」
 どうやら、あの宴に来ていた娘と来ていなかった娘がいるらしい。
「あのね……」
 そうして会話が途切れたと思ったら、少しして「きゃあっ」と楽しげな悲鳴が上がる。
 うう。きっとあの時(キス)の話をしているのだ。こんな調子で村中に話が広がっているに違いない。
「ユニカ様、そんなにたくさん入れては蓋が閉まりませんわ」
「ほ、本当ね」

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