天槍のユニカ



寄す処と手紙(13)

「それで、何か用でも?」
 まだくつくつと笑いながらラドクが読書の体勢に戻るので、アルフレートはもう少し詳しく聞きたかった図書≠フことを心の隅に書き留め、さも可愛げにぴょんぴょん跳ねて兄に駆け寄った。
「兄上、なんだかフィドルが弾きたい気分じゃありませんか? 僕、伴奏してあげましょうか」
「いらん」
 簡潔にアルフレートの申し出を断った兄は、再び古そうな資料を山積みにした机へ向き直った。
「何してるの?」
「今年視察に行く我が家の領地の諸々を確認している。姉上がゼートレーネの滞在を延ばしたいなどとおっしゃるから、僕が見に行くあとの予定に余裕がないんだ。だから、お前と遊ぶ暇はない」
「ふーん……」
 アルフレートが微塵も興味をそそられない紙や羊皮紙の束を睨むカイは、眉間にしわを寄せて、それらを読むのにいかにも忙しそうだった。しかし、実は結構やる気に燃えているのだということを弟は知っていた。そういう時はどう誘っても無理だ。
 明るい音楽などを一緒に奏でて気分を慰めようと思っていたが、諦めるとしよう。
「坊ちゃん、よろしければ自分がお相手しましょうか。フィドルもクラヴィアも弾けませんが、剣のお稽古なら」
「さっきの本の話でもいいよ」
「アルフ」
 背中から叱られ、思わず肩を竦める。
 ラドクの申し出はありがたかったが、今は大地に脚を踏ん張って剣を振り回す元気が出そうにない。結局、二人にも別れを告げて書斎を出た。
 さて、何をしてすごそうか。
 口の中で小さくなった飴を転がしつつ、そぞろに館の二階へと上がる。景色のよい二階の応接間にお茶を持ってきて貰って、ひたすらぐうたらしていようかな。
 そう考えながら通り過ぎた部屋の扉に真鍮のプレートが提げられていたことに気づき、アルフレートは数歩後ろへと戻った。
 プレートに書かれていた文字を読む。
 口の中で薄くなっていたタフィーの残りがぱきりと割れた。




- 1098 -


[しおりをはさむ]