原因が分からない体調不良は急に回復した。少しずつ食欲も戻り、部屋から出て過ごす私にマルコは嬉しそうに笑ってくれてる。親父も「安心した」と頭を撫でてくれたっけ。
けど、今はまた元気が無い私。今更になって気付いたんだ……生理がずっと来てない事を。
「はぁ〜……」
甲板に出て、海を見ながら溜め息を吐く。自分の中で育つ命に、まだ実感などはない。けど、恐らく間違いなく私の中には新しい命が宿ってる。そして、それは間違いなくマルコの子。
「…何て伝えればいいかな」
そもそも私はどうしたいんだろ?産みたい、のかな?分からない……けど、きっと堕ろせと言われても私は堕ろせない。それは母性、なのかな?
マルコと離れたくない。けど、堕ろしたくない。産むとなれば親父の船に居れない。でも、船を降りたくない。
「……なんちゅー我が儘なんだろ、私は」
「何が我が儘なんだよい」
「ひっ?!…ま、マルコ!!」
後ろから声を掛けられ、これでもかって程驚く。これじゃあ、何かやましい事があるって言ってるものだ…。
「アクア、何を隠してるんだよい?」
「な、何も…!」
思わず吃ってしまう。けど、そんな簡単に言える事じゃないし…!
「…そうかい。まあ、アクアが言いたくないなら聞かないが」
「(……ほっ)」
「けど、」
「っ、?」
「俺はそんな頼りにならない恋人かよい」
「…!!」
ボソッと寂しそうにマルコに胸をギュッと掴まれた気分になる。
……そうだ。これは私一人の問題じゃないんだ。お腹の命は、私とマルコの子なんだから…。
「…ごめん、マルコ」
「…?」
「ごめんね…」
「?!…アクア?」
謝罪の言葉を伝えると何故か涙まで溢れてきて零れた。マルコは驚き慌てて私を抱き締めてくれる。マルコの腕の中で不安や喜び、焦りや心配とか色々な感情が私を襲う。そのせいで涙が止まる事はなく、次々と零れた。
「アクア、何があったんだよい…?」
「マルコ…ッ……私、」
「ん、ゆっくりで良いから…」
優しく背中を撫で、次の言葉を急かす事なく待ってくれてる。そんなマルコの優しさに少しずつ心が落ち着いてく。
「…ッ……あの、ね」
「ああ」
「私、多分……妊娠、した」
「!!」
私の言葉にマルコが息を飲んだのが伝わってきた。マルコが何て言うのかが分からなくて、不安にまた涙が溜まる。マルコの言葉をとにかく待とう、そう思った時マルコは口を開いた。
「俺の、子…かい?」
「あ、当たり前でしょ」
「そっか……そうだよな、」
その瞬間、私を抱き締める腕の力が強くなる。不安を抱えながらもチラッとマルコを見上げる。
「嬉しいよい…!」
「!!!」
そこには満面の笑みで喜びを露わにしてるマルコが居た。
「アクア」
「あ、え?」
「順番は逆になっちまったけど……結婚、してくれよい」
「っ、い…いの?」
「当たり前だよい……返事は?」
優しく微笑み、答えの分かりきった質問をしてくるマルコはちょっと意地悪だ。さっきとは違う、嬉しさと幸せの感情が込み上げ涙が零れるが気にしない。
「はい、喜んで…!」
私の返事をしてる途中から強く抱き締めてくるマルコ。私も負けじと抱き付き、小さく「大好き」と呟いた。その言葉はマルコに届いたみたいで、耳元で「俺もだよい」と囁かれ、軽いキスを落とされる。まだまだ色んな心配事はあるけど、マルコが居れば何もかも大丈夫!そんな気分になれる。この先もきっと、ずっと、大丈夫。
(とりあえず、親父の所に言いに行かなきゃだな)
(何て言うの?)
(娘さんを俺に下さい、だろい?)
(息子に娘を取られるんだ…親父、大丈夫かな?)
fin.