さすがに朝からずっと屋上にいると、堪える。
主に腰と尻に。
まあ、始業式や授業に出ているよりはよっぽどマシじゃが。
上を見上げれば、あの日と同じような空が広がっている。
…やっぱり、教室に戻る気はせん。
「…?」
扉の開く音に反射的に視線がそちらに向く。
そこにはよく見知った男が立っていて、ばちりと目が合った。
授業中であるにも関わらず、こいつがこんな場所に来るとは意外じゃのう。
「よう、幸村」
「仁王。初日からサボりかい?」
「お前さんに言われとうないぜよ」
「…そりゃごもっとも」
ベンチに横たえていた体を起こす。
首をかしげる幸村に手招きをすれば意図が伝わったようで、俺のあけたスペースに座った。
空をあおぐ俺と同じように、幸村も背もたれに寄りかかり空へと視線を向ける。
「…もったいないね。こんな気持ちのいい日なのに、みんなは机に向かってる」
「そうじゃ。俺たちのほうがよっぽど時間を有効に使っとる」
…だからといって、幸村は授業をサボるような奴ではない。
そんな男がどうして屋上に来たのか。
思い当たる節は、一つしかない。
「幸村。さっき理事長室に呼ばれとったな」
「なんだ。知ってたの?」
「屋上は静かじゃからのう。校内放送でもよく聞こえる」
「…そうか」
幸村は上を向いたまま、自分の腕で目元を覆った。
その表情は見えないが、泣いているわけではないのだろう。
俺はそんな幸村の様子をうかがっていたが、しばらくたっても微動だにしないので、仕方なく再び空をあおぐ。
…雲が流れる。あの日と同じように。
「…少しだけ、休ませてくれ」
そんな、小さな声が聞こえた。
心の叫びを聞いた気がした。
だが俺はもう、幸村のほうを向くことはしなかった。
もしかしたら幸村は「一人にしてくれ」という意味で、そう言ったのかもしれん。
でも今の幸村を一人ここに置いていくことはとてもじゃないが、できんかった。
だから、ただ黙って、横にいることにした。
あの夏の日と同じ空の下で、二人。
あの青空へ逃避行(連れ出せてしまえたら、いいのに)2012/03/29
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