校庭に出ていた俺は、予鈴が鳴って教室に戻ってきたときに、幸村部長が理事長室に呼び出されたことを聞いた。
部長が名指しで呼ばれていることの珍しさ(しかも理事長室)と三時間目が大嫌いな英語だったこともあって、呼びとめる友達を無視して俺は理事長室へ向かった。





「…なんも聞こえねぇし」


理事長室の閉ざされたままの分厚い扉に耳を当てた状態で、小さく舌を打った。
ついさっき、本鈴も鳴った。
とっくに話は終わって幸村部長は教室に帰ってるかもしれない。
でも俺の勘が部長はまだ中にいると告げたので(それに英語は嫌だ)、理事長室から出て教室に戻るときに使うであろう階段で待つことにした。





「…赤也?」


柔らかな声に振り向けば、ああ、やっぱり。
幸村部長が目を丸くして俺を見ていた。
時計を見れば、もうあと数分で三時間目が終わる。
そりゃあ、俺が眠くもなるはずだ。
階段におろしていた腰をあげ、部長の正面に立つ。


「…長かったっすね。理事長の話」
「…そうだね。俺を待ってたのか?」
「はい。気になって」
「何が?」


わざと、しらばっくれているように感じた。
そんなの、幸村部長が理事長から何を言われたかだ。
学生の本分である勉強の時間を(俺に言われたくないって?)潰してまで、幸村部長ただ一人に。


「…いい話じゃ、なかったんでしょ?」


それぐらい、バカの俺でも分かる。
でも良くない話ってなんだ?
テニス部の廃部?いやいやまさかな。
これくらいのことしか思いつかない俺の脳みそはきっと豆粒みたいに小さいんだろう。


「大丈夫。俺の問題だ。お前のことでも、テニス部のことでもないよ。俺のことだから、赤也は気にしなくていい」
「そんな…テニス部の部長として呼ばれてたんでしょ?部の話じゃなかったんすか?」
「そんなことより。今は授業中だぞ。自分の教室に戻れ」
「でも!」
「戻れ」
「…っす」


結局、幸村部長は何一つ…話してくれなかった。
何を言われたのか、なんで教えてくれないのか。
…幸村部長が今も部長を続けていることに、関係してるんだろうか?






心の奥にそっと隠したもの



(分け与えては、くれないの?)




2012/03/29


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