なーんでうちの学校は夏休み明けの初日から授業なんだよ。
だるい、だるすぎる。
勉強なんてする気になれねぇ。
仁王の席を見てもカバンがあるだけで、本人のことは朝から一度も見ていない。
あの野郎、どこでサボってんだ。
俺も中休みからそもままバックれるかな…なんて、考えているときだった。





「テニス部部長、幸村精市。至急理事長室へ来なさい」





そんな、放送が校内に響いた。
…理事長室?しかもテニス部?
なんだか嫌な予感がして自分のクラスを飛び出すと、ちょうど幸村君がC組の教室から出てくるところだった。


「幸村君!」
「うわっ、ブン太。どうした?」


思わず幸村君に駆け寄り、両腕を掴んでしまった。
俺より身長の大きい幸村君の腕は、俺の腕よりずっと細い。
謎だな。
…そんなことより。


「幸村君。今の呼び出し、何?」


俺の問いかけに、幸村君は一瞬だけ目をそらした。
なんでだよ…。


「…さあ。なんだろうね」
「本当に分かんないの?」
「だってこれから呼ばれたとこに行くんだから、何の用かなんて分からないよ。ああ、もしかして夏休み前の試験がやばかったのかも。ほら、範囲が入院してた時期とかぶってただろ?」


テニス部部長って名指しで呼ばれてるのに?
それも理事長室だろぃ?
そもそも勉強の成績のことで幸村君が呼ばれるわけねぇっての。
…そう思ったけど、言えなかった。


「一人で行くの?俺じゃあれだけど、テニス部のことなら真田でも連れて行けばいーじゃん」


だって幸村君が、辛そうに笑うから。
きっと、どうして自分が呼ばれてるのか、幸村君は分かってるんだ。
バカな俺には分からないけど。


「呼ばれたのは俺だよ、ブン太。じゃあ俺、行くから」
「…幸村君!話終わったらメールしろよな!」


するりと俺の腕を放し、幸村君は廊下を駆けていった。
なぜかその背中は、今まで見たことないくらい、小さく見えた。






意味もなく泣きたかった



(本当に泣きたいのは、俺じゃないはずのに)




2012/03/28


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