「準優勝」
その一言に、空気がざわつく。
…ように感じた。
ここからは少し遠い舞台の上に、部長である幸村君がいる。
背筋を伸ばし、堂々と歩き、壇上に立つ。
「ね、柳生君。テニス部、準優勝だったの?」
肩をつつかれ振り向けば、驚きを含んだ声でそう問われた。
その疑問も尤もだと、どこか他人事のように思う。
始業式からそのまま表彰式へと流れた。
立海の表彰において「テニス部」の後に続くのは「優勝」のただ一言だった。
なぜならそれは、私たちが「常勝」を掲げているからだ。
「…ええ、今回は」
「そっかー。残念だったね」
話している間に、幸村君は舞台を降りたらしく、壇上には別の部の生徒が立っていた。
幸村君が「準優勝」の賞状を頂いているの姿を見て皆さんは、何を思っただろうか。
仁王君はこのような式典にはいつも出席しないのでいないのかもしれないが、他のレギュラーはきっと前に立つ幸村君を見ていたはずだ。
あの日、私たちの夏が終わったあの日。
「準優勝」という結果に終わったことを、それぞれのかたちで受け入れることができたのだと思っている。
しかし今「準優勝」の賞状を受けとる部長の姿を見て、手放しで喜んでいる部員は、きっと誰一人としていないだろう。
「…幸村君!」
「ああ、柳生。おはよう」
教室に戻るとき、幸村君の背中が見えた。
私が声をかければ、穏やかに微笑み返してくれる。
それは、コートの外にいる幸村君そのもので、不思議と懐かしさを感じた。
「準優勝、って言葉…慣れないよね」
あ、嫌味っぽいか今の、と言ってばつが悪そうに笑う。
聞き慣れた言葉に、漢字一つ付いただけなのに、ひどく遠い存在であるように感じられる。
「…いえ。きっと、皆さんも同じように思っていますよ。私も、もちろん」
私がそう言えば、困ったように眉を下げたまま「ありがとう」と返された。
それは、なんでもないような一言(だけど、私たちには意味がありすぎて)2012/03/23
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