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家に着いたマリカは掃除や食事の準備をてきぱきと終わらせる。相変わらず家事の上手い奴だ。…それがそれなりに不幸な生い立ちのせいだと思うと素直に感心できないが。


「さ、スープ煮てる間にお風呂入ってきて」


その言葉に腰を上げる。こちらではあまり湯船につかるという慣習はないが、マリカは日本での生活が長かったせいか、よく湯を張るらしい。
風呂に入ってふと違和感を抱く。普段と何かが違うのだ。少し考えて匂いが違うという事に気付く。…まさか。
風呂から出て聞いてみると、案の定日本の水をわざわざ入れたらしい。スタンドの無駄遣いだ、と言えば、必要経費みたいなものだと逆に窘められた。納得がいかない。



「そろそろ寝ようか」


食事を終えて、お互い書類に没頭する事数時間。いつの間にか日付が変わる直前だった。


「そうだな、オレはソファーで寝るからお前はベッドを使え」

「は?それじゃあ疲れ取れないじゃん。ほら、さっさと着替えて歯磨いてベッド行くよ」


何言ってんだこいつ、とでも言いたげな目をオレに向けるとマリカはオレの服を掴んで足早に歩き出す。…いや、待て。


「じゃあお前がソファーで寝るのか?」

「やだよ。なんでそんな身体痛くなりそうな所で寝なきゃいけない訳?」


…それはつまり。


「…お前はそろそろ年頃の女としての自覚をだな」

「別に君と寝るのにそんなこと心配する必要無いでしょう」


違うの?ときっぱりと言い切られてしまっては何も言い返す事は出来ない。確かにマリカのことをそう言う目で見るかと言えば断じてノーだ。こいつは血こそ繋がってないが、妹同然である。むしろ想像しただけでげんなりした。


「…他の男の所でこういうことはするなよ」

「そこまでアホじゃないって」


オレが折れたことが分かったのか、マリカはけらけらと笑った。
結局ベッドに二人並んで潜り込む。流石に向かい合って寝る気にはなれずにお互い背を向けあった。


「あー、ベッドとか久々だわ…」

「…お前はもう少し休め」

「まあ、忙し時期が終われば休めるよ…」


マリカも疲れていたのだろう、急速に言葉に力が無くなって行き、寝息が聞こえ始める。それを聞きながら、自分もそっと目を閉じた。…今日は、眠れるだろうか。


ちゅんちゅん、と窓の外から呑気な鳥の声が聞こえた。身体を起こせば、日の光が差し込み始めた部屋が薄明るく照らし出されている。


「…寝られた、な」


これ以上ない程の快眠だったと言えるだろう。こうして朝まで目が覚めなかったのは何時振りだろうか。


「…おは、よ」


オレが動いたせいか、マリカももぞもぞとこちらを向いてへらりと笑った。その能天気そうな顔に、思わず笑ってしまう。


「なに、笑ってんの…」

「…涎の跡が付いてるぞ」


ごしごしと顔を拭ってやれば、されるがままになりながら、マリカは一度大きく欠伸をしたのだった。